ペテルマン・ベダ 1967 のステップセコンドを実現するガフネ機構を解読する

 By : CC Fan


KIHさんがレポート
した気鋭の若手コンビ、ペテルマン・ベダ(Petermann Bedat)、初作は機械式時計業界が良くも悪くも大きな影響を受けることになったクオーツ腕時計のプロトタイプが完成した年を作品名に掲げ、「クオーツらしい」1秒ステップで動くセンターセコンドを搭載するひねりの効いた作品です。
初作とは思えない完成度で、10本×2の限定数はすでに完売とのこと、好調な滑り出しです。

さて、特徴にもなっている1秒ステップセコンドを実現しているガフネ機構と言う機構が気になったのでいつもと同じように解読してみようというのが今回の趣旨です。
一見するとガンギが2つあり、どのように動いているかわかりにくいという事だったのなるべく平素な説明になるよう解読していきましょう。

結論から先に書いてしますと、2つの同一設計の30歯のガンギを使っているが、アンクル側の工夫で片方はカムとして動作し、もう片方は本来のガンギのような脱進動作をするという事です。
順を追ってみていきましょう。

ガフネ機構のガフネと言うのは人名で、ラショードフォン時計学校の教師でもあったロベール・ガフネと言う人物です、1940年代にガフネ機構を考案、卒業制作時計や懐中時計に搭載しています。


ガフネ機構は本来の計時輪列の上に重なるように設置されており、1分間で1周する4番車側から連続(正確には1/5秒ごとのステップ動作)の回転が入力されるとガフネ機構が一種の脱進動作を行い1秒ごとのステップ動作に変換し、2番車中央に通ったセンターセコンド軸に出力する機構になります。
まずはブリッジを外してみましょう。


向かって左の入力と向かって右の出力にそれぞれ同一形状のガンギ車があり、その間をアンクルで連結した構造が見えます。
4番車と入力のガンギ車は連結されており、同じ速度で回転しますが、出力と2番車は軸を共有しているだけで独立した回転になっています。

更に2番車と4番車も取り除きましょう。


ガフネ機構部分のみを抽出したものが上の図です。
2階層になっており、4番車の回転を1:1(すなわちそのまま)伝える伝え車の層と、タイミングを制御するガンギとアンクルの層です。



伝え車の出力とガンギはトルク蓄積と速度差吸収用のスプリングで連結された構造になっており、ステップセコンドガンギが1秒に1回、1歯解放されるたびにスプリングに蓄積されたトルクで1秒分一気に進む(≒ステップセコンド)動作をします。

ガンギ車はスプリングを連結するひげ持ちがある以外は完全に同じ構造に見えますが、主従関係はあるのでしょうか?





キモはガンギそのものではなく、噛み合うアンクル側にあります。
左側のタイミングを制御する制御ガンギには爪石が約40度の浅い角度で当たっているため、ガンギが回転するとこじる様に押し上げて力が伝わり、ガンギからアンクルを動かすことができます。
対して、右側の脱進を行うステップセコンドガンギは歯先と爪石がほぼ90度で当たるような設計になっているため、ガンギが回転してアンクルを押しても力が伝わらず、ロック解除は制御ガンギがアンクルを駆動した時にしか行われません。
このように、左側の制御ガンギが1秒に1回の解除タイミングを生成し、右側のアンクルを脱進制御することにより1秒ごとのステップセコンドを作っています。

ガンギの歯は30歯、2歯のアンクルと交互に噛み合うため全体で30×2で60カ所の停止位置があり、これは60秒を1秒ごとにステップセコンドで表示したのと同じです。



より詳細に爪石と歯先の角度を見てみましょう。
赤色がガンギ、黒色が爪石の角度です。
制御ガンギ側は角度がついているのに対し、ステップセコンドガンギ側はほぼ重なっていることが分かります。

上流(トルクが強い側)からタイミングを取っているという意味では、ルモントワールよりは素性がいい機構ではないかと理解しました。
ただ、これもスプリングに蓄積されるトルクのバランスや4つもあるアンクル爪石の調整を考えるとかなりの難易度ではないかと予想されます。
ステップセコンドの技法は他にもある中、あえてあまり顧みられることがなかったガフネ機構に注目したという点でも興味深いです。



ムーブメントのデザインも「主役」たるガフネ機構を中央に据えたデザインです。

KIHさんのシンガポールレポートの時から見ると、表の顔も随分洗練され、「キャラクター」を確立した感があります。



まずは幸先のいいスタートおめでとうございます!

Petermann Bedat

Chemin du Closel 3
1020 Renens
Switzerland
https://www.petermann-bedat.ch/
info@petermann-bedat.ch
 + 41 (0) 21 633 77 30