H. Moser 新作実機2 (CARRÉ DES HORLOGERS)

 By : CC Fan
SIHHの小規模メゾンが集まるCARRÉ DES HORLOGERS(カレ・ド・オロロジ:時計の広間)よりH. モーザー(H. Moser & Cie)の新作を紹介いたします。

H. モーザーからは既に速報として"それは牛です"#MakeSwissMadeGreatAgainなどのキーワードで話題を振りまいたスイスマッドウォッチ(Swiss MAD Watch)を紹介しています。

技術的に見ると最も注目すべきなのは、ベンチャー・スモールセコンド XL パラマグネティック(Venturer Small Second XL Paramagnetic)ではないかと思います。

背景として、昨今の時計業界では磁気帯びのリスクを回避するため、磁化しない非磁性体のヒゲゼンマイの開発が行われています。
特にシリコン(ケイ素)をフォトリソグラフィ(光学処理と化学処理による型抜き)で成形した使ったものが多く、伝統的な時計製造技術とは全く異なる製法で作られていました。
ヒゲゼンマイメーカーでもあるH. モーザーはあくまで伝統的な冶金技術の延長として、チタンとニオブの非磁性合金であるPE5000を開発、これを使い伝統的な手法でヒゲゼンマイを製造し、搭載したモデルです。



青色のテンワが目につきます。
これは素材の色と言う訳ではなく、分かりやすいように色を付けているそうで、ベーシックな3日巻きムーブメント、HMC327に対し、テンプ周りの部品を変更しています。

PE5000はまだ大量に作るような段階ではないため、今回は10本の限定となっています。
今後どうなるかは注目したいです。

このピースについては技術説明に興奮してしまい、表面の写真を撮り忘れました…

次に、インデックスを最小化したコンセプトウォッチの新シリーズ、ベンチャー・スモールセコンド・ピュリティ(Venture Small Second Purity)です。





直径39mm、ムーブメントはPE5000は使われていませんが、同じHMC327です。
WG,RGともに100本の限定です。

モーザーが誇る理論上は1027年に一日の誤差の"高精度"ムーンフェイズムーブメントもリファインされ、伝統技法に沿って作られたヘリテージ(Heritage)ケースに収められました。



ムーンフェイズは時分針から直接かつ連続的に駆動する仕組みで、調整用の基準線(円に接している線)を持っているのが特徴です。
5時に向いている小さな針は24時間表示針で、調整時に午前と午後を区別するためのものです。

文字盤はグラン・フー・エナメル、針はブルーススチールです。

既存作ムーンに使われていたHMC348は、基本的な仕組みは同じで、独立時計師アンドレアス・ストレーラー(Andreas Strehler)氏が協力して開発したそうですが、"繊細過ぎた"ため、H. モーザーのチームによってリファインされ今回のHMC801になったそうです。



HMC348ではムーブメント直径に近いサイズの歯車によって実現されていたパワーリザーブ表示が針式に改められ、輪列も変更されているように見えます。



ケースサイドにはギロッシェの上にグラン・フー・エナメルを焼成しています。



反対側も同じようにエナメルが埋め込まれています。
真ん中に見えるプッシャーはムーンフェイズの修正用です。



ラグの間にもエナメルが施されます。

ムーブメントの技術的な面白さと、ケースの工芸的美しさがお互いを高めあっていると感じました。
ホワイトゴールド製で、限定30本です。

最後に、流行のスマートウォッチに対してH. モーザーからの"回答"として発表したスイス アルプ ウォッチ(Swiss ALP Watch)の新作です。
オリジナルのアルプ ウォッチについては公式の動画をご覧ください。



One Application : Time

元々は本数限定でしたが、人気のためバリエーション変更ののち、定番化したそうです。

それはさておき、このケースを使った新作、スイス アルプ ウォッチ ミニッツ レトログラード(Swiss ALP Watch Minutes Retrograde)です。



姉妹ブランド(ブースも併設)のオートランス(Hautlence)のコンプリケーションムーブメントを使っています。
動きはオートランスの動画をご覧ください。



オートランスの記事でも書きましたが、"動きが面白い"に尽きます。



文字盤はハーフミラーのようなサファイヤに金属蒸着で作られているとみられ、光の加減によって表情が変わります。



ジャンピングアワー、レトログラードミニッツ、脱進機全体が回転する、パワーリザーブ表示。



自動巻きローターを備えています。



オートランスと同様にサイドに開口部があり、回転する脱進機全体を眺められますが、流石に厚いです…

ホワイトゴールド製で限定10本です。
日本では見られるのでしょうか?

キャッチーな話題を振りまく一方、地道な作品を作り続けるH. モーザー、個人的にはとても好きです。

ちなみに、併設しているオートランスも新作は持ち込んでいましたが、写真撮影と媒体への掲載はまだ"お預け"だそうです。

関連 Web Site

H. Moser & Cie
http://www.h-moser.com/jp/

(参照)スイス時計協会FH WEBサイト
http://www.fhs.jp/jpn/strengthening.html

(参考) Hautlence
http://www.hautlence.com/en/