BaselWorld2018 ウルベルク AMC

 By : CC Fan
バーゼルワールドで"尖った"独立系メゾンが集まる会場として注目を集めていたPALACE(パレス)と呼ばれる会場がありました。
元々はメイン会場とは別に近くの広場にテントを設営していましたが、バーゼルワールド自体の規模の縮小に伴い、3号館に移り、ついには消滅してしまった…という歴史はリアルでは体験していませんが、伝聞で聞いています。
ちなみに、ノーブルスタイリングさんのパレスイベントはこのパレスの熱気を日本にも持ってきたいという趣旨で同じ名前を付けたそうです。

さて、パレスに出展していたブランドのうち、一部は本会場内のアトリエ(LES ATELIERS)と呼ばれるエリアに出展するようになり、ラング&ハイネ(Lang & Heyne)チャペック(CZAPEK)はこちらに出展しています。
別の一部は会場隣のハイペリオンホテル(旧ラマダホテル)内で展示を行っています。
往時を知る方によると"パレスっぽい"雰囲気はアトリエよりハイペリオンホテルの方にあり、より尖ったブランド・作品が多かった印象です。



ロビーに机を並べたり、カンファレンスルームを使って展示を行っています。

今回はハイペリオン組からウルベルク(URWERK)のAMCをご紹介します。
これは、SIHH2018でムーブメント側だけ紹介されたAMC(Atomic Master Clock)の完成版となります。
まずは全容をご覧いただきましょう。



まるで兵器のコントローラーのような外観です。
AMCは機械式の腕時計(子機)とGPSに同期した原子時計の置時計(親機)がセットになった時計システムで、腕から外した腕時計を置時計にセットすることで巻き上げ・時刻合わせ・緩急調整を自動で行い、常に最適な状態を保つコンセプトです。
左側に微妙に見切れていますが、別途GPSのアンテナが付属しており、置時計内部の原子時計はGPSによって校正されます。

時計を測定器と見ると、時刻合わせや緩急調整というのはより高位の標準器(Standard)と比較して校正(Calibration)を行うことに他なりません。
時刻合わせはともかく、緩急調整はユーザーが行うことは不可能でしたが、ウルベルクはタイムグラファーを内蔵し、ドライバーが必要とはいえ緩急針にユーザーがアクセスできるEMCという提案を行ってきました。
AMCは時計内に内蔵しない代わりに使いやすさ(ユーザビリティ)をより向上させています。

置時計には大きく分けて二つのパネルがあり、時計をセットするパネル1と操作ボタンが並んだパネル2です。



パネル1です。
左側がリュウズを回す巻き上げ部分、上側が各種調整を行うプッシャーです。
操作中は時計をロックするため、それらの状態を示すためのLEDも設けられています。



奥側に置かれていた緩急調整を行うリンクです。
手前のA-TIME / M-TIME INTERFACEというのは原子(Atomic)時間と機械(Mechanical)時間を接続(Interface)する部分という意味です。
ほとんどの部品はアルミ削り出し、あえてツールマーク(切削痕)を残すデザインと見えます。



ムーブメントの解説です。
右側に見えるコレクターを置時計が押すことにより、緩急調整と時刻合わせのモードを切り替え、リュウズでコントロールする仕組みのようです。
このプッシャーは人間が押すことは想定しておらず、調整は置時計専用のようです。

EMCでは内蔵のタイムグラファーが光学的にテンワの振動を測っていましたが、AMCでは純粋な機械式時計になったため通常のタイムグラファーと同じ音で検出する方式のようです。
また、上側に緩急調整量(RATE ADJUSTMENT)を見るためのインジケーターも設けられています。



サファイアバックにより、ユニークなムーブメントを観察することができます。



ムーブメントとベルト。
置時計にセットするために腕時計本体がベルトから簡単に外せる仕組みになっています。



パネル1に時計を置いたうえで、レバーを180度動かすと固定され、さらに操作時にはレバーが動かせないようにロックされます。



蓋を閉じると正面のLEDディスプレイだけが露出し、より兵器感が漂います。
サイドにはツールマークを強調したAMCのロゴが。



LEDディスプレイは上段が年・月・日、下段が時・分・秒・1000分の1秒です。
1000の1秒が目障りな場合、左側のスイッチで消すことができます。
右側のスイッチは全体のリセットなど重要を操作を誤って行わないためのセキュリティボタンで、カバーを開け、このボタンを押しながらでないと操作が行えません。

一見するとなんて事のないデジタル数字(7セグメント)のLED表示ですが、ここにもウルベルクのこだわりがあり、"ノンマルチプレクス"ディスプレイとなっています。
非常に雑な説明ですが、一般的なデジタル数字のLED表示は人間の目の残像効果を使い、数桁ずつ時間を分割(マルチプレクス)して光らせています。
これをダイナミック点灯といい、点灯に必要な信号線の数を減らすことができます。
しかし60分の1秒程度で一周する方式が多いため、1000分の1秒まで表示するととても間に合わず、さらには残像効果がない高速シャッターのカメラで撮ると表示が崩れてしまうという問題があります。
だったら時間を分割(マルチプレクス)しなければいい…というのがノンマルチプレクスディスプレイです。
LEDは数字 ピリオドで1桁あたり8個なので、非常に力技で8個×17桁で136個のLEDを1/1000秒単位で個別に制御すれば崩れない表示が実現できます。
このために制御用のコンピュータに加えFPGA(field-programmable gate array)を使用し、1/1000秒単位での表示が揃うようにしたとのこと。
電気の世界では1000分の1秒はそこまで大変ではないですが、こだわりは感じました。



これは巻き上げを行っているところ。
ボタンを押すことで好みの量を巻き上げることができます。



多少ピンボケですが、パネル2の拡大図も。
GPS自体はUTC時間を取得しますが、時差調整用の±1/4時間ボタンと±1時間ボタンを組みあわせてローカルタイムに調整することができます。
WINDボタンは巻き上げ、HOLDボタンはLED表示を保持(HOLD)します。
光っている3つのボタンはセキュリティボタンを押しながら出ないと反応しないボタンで、システムリセットと±1秒単位の調整です。
一番下は自動で行われる緩急調整・動作の確認・同期を手動で行うためのボタンです。
さらに、手前には手動でうるう秒を挿入するボタンがあり、秒単位の調整を行いたい場合は通常はこちらを使います。
±1秒を押すと、分が変わるタイミングでうるう秒(60)が挿入され、内部的な基準から秒単位でずらすことができます。
真ん中のボタンを押すことで、現在挿入されているうるう秒を確認することもできます。



セキュリティボタンを押してリセットするとこうなります。
GPS経由で時間を取得するまで表示が停止し、取得し次第復帰します。
手前側のLEDは左から原子時計のウォームアップ(暖気)・緩急調整・時刻合わせ・GPSのアンテナ接続・GPSの信号補足・同期が必要・原子時計のバックアップ電源の異常となります。

伝統的な時計作りというより、コンピュータやロボットのSFめいた文脈ですが非常に面白い仕掛けだと思いました。
何より腕時計の"親機"として原子時計を内蔵したここまで大げさな機械がセットになっているというコントラストが素晴らしい。

実用的には瞬間の歩度しか見ないタイムグラファーと違い、内部のコンピューターが瞬間の歩度の積算でズレた値の両方を判断し、持ち主の"癖"に合わせた調整を行うようなシステムになっているとか…
他と同じことはやらず、ユニークな提案を続けるウルベルクらしいと言える作品ではないでしょうか。

生産数はユニークピースではないそうですが、非常に少なく、まずは市場の反応を見てからとのことでした。

関連 Web Site

URWERK
http://www.urwerk.com/
NXONE
http://www.nxone.jp/
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