2020年を振り返る グッバイバーゼルと展示会の限界は?

 By : CC Fan
2020年も残すところ僅かとなりました、今年はまさに「激動」と言って良い年だったと思います。
2019年の年末を思い返してみると、「日本のゴールデンウィークというふざけたスケジュールだけど、WAWGとバーゼル行かなきゃ、飛行機予約したし…」だったわけで、そこから急転直下、WAWGは「中止」で「オンライン開催」、バーゼルは「延期」からのドタバタ…を経てほとんど終了と言って差し支えない状態にまで一気に落ち込みました。



ニュースをリスト化しようと思ったのですが、思った以上に数があったので断念、象徴的なものを追っていきましょう。

まず、前提として、今年からバーゼルとWAWG(SIHH)がスケジュールを連続させた開催となり、WAWGは4月末、バーゼルは5月初頭になっていました、これは「スイスに来るのは1回でいい」という事を狙った施策のようですが、開催場所はジュネーブ(スイス南西端)・バーゼル(同じく北端)と相変わらず離れていますし、特にオフィシャルの移動手段を用意するわけでもありませんでした。
例えばセイコーはこの(唐突な)スケジュール変更を不服とし、参加を見合わせています。
この発表から、スケジュール変更は出展者(少なくともセイコークラスの大きなブース出展者)の合意形成を行わず、委員会側が勝手に決めたことが伺えます。

2020年に入り、ブルガリがバーゼルから撤退WATCH MEDIA "OFF"LINEにて展示会の未来について語ったのが2月、コロナウィルスが徐々にその恐ろしさを明らかにしてきました。
バーゼルはどうやら抜けてしまった大手に変わる参加者集めに必死で、かなりの好条件でブースを提供していたらしく永遠の時財団クレヨンと言ったニューカマーの参加も発表されました。

その一方、セイコーとカシオに続き、スイスブランドも保有するシチズンも出展を中止、こちらはスケジュールの問題ではなくコロナウィルスのパンデミックの影響を考慮した決定です。

そして運命の2月28日、WAWGが「中止」とオンライン開催を決定、その直後にバーゼルワールドをも「延期」を発表しました。
個人的に最後の希望だったラ・ショー=ド=フォンで行われる予定だったTWSはこのタイミングでは実施予定でしたがいろいろあって中止でした。

さて、この「中止」と「延期」という表現を聞いたときに、一番最初に思ったことは「延期は多分返金対応したくないんだろうな…」という事でした。
この時は特に裏付けがなかったので単なる個人的なゲス予測でしたが、その後のニュースを見ると大体そういう事だったようです…

そして、WAWGは「オンライン開催」へ。
これは要するに専用サイトで、資料をダウンロードできる仕組みなのですが、かなり急造感が漂い、使い勝手も良いとは言えませんでした。
しかし、地道な改善と回数をこなせばよくなるのでは?という希望は持てる作りだったとは思います。
その後上海にて小規模ながらリアルイベントを開催、渡航制限のため中国のローカルイベントのような扱いでしたが、専用サイトで資料は入手できました。

良い所なしなのがバーゼルで、各方面から「うちの方が良い条件で参加できるよ」と煽られたうえ、前述の「延期」に伴う返金対応のグダグダさで、1階入り口付近に長年出展(=最重要出展者)してきたパテック・フィリップ、ロレックス、シャネル、ショパール、チューダーが連名で撤退を発表、それに対して答えになってない答えをMCH(バーゼルワールドの運営)が発表し、LVMHグループ(ここも1階入り口付近)も撤退するというまさに踏んだり蹴ったりの展開になりました。

歴史にIFは無いのですが、最初にWAWGと同じように「中止」として返金対応などの誠意を見せていれば…とは思わなくはないです。
最終的には一か月ほどで「和解」に至ったと発表されましたが、あれだけ派手に出ていってしまった最重要出展者が戻ってくるわけでもなく、新しく作られたWebサイト、アワーユニバースの更新も特に行われていないように見えます。

ブルガリがイニシアチブを取った「分散型」イベント、ジュネーブウォッチデイズは開催はしたようですが、やはりスイス国内・ヨーロッパ向けと言った感じでスケールダウンしている感は否めません。

年末の風物詩で派手なパーティーを行っていたGPHGも今年は地味で、授賞式もソーシャルディスタンスとオンラインで行われました。

コロナウィルスのパンデミックは収まる様子を見せず、来年のWAWGも「オンライン開催」と聞いても、特に驚きはありませんでした。
これはある意味での慣れというか、「新しい生活様式」への適合なのかもしれません。

私は展示会否定と思われているかもしれませんが、展示会は間違いなく楽しいですし、参加すればそれなりの発見もあるので、やってはほしいと思っています。
それでも現在のネット社会に合っているか?と言われるとノーと言わざるを得ません。
情報発信のコストがほとんどゼロに近くなって誰でも情報の発信だけならできるようになった時代に「実物」を見せるためだけに非常に高いコストをかける必要性はあるのか?という問題が一つです。
展示会のためにネットから切り離された飛行機に乗って、現地に着いたらすでに情報が発表されて自分以外はネット知っている…と言う状況だとわざわざ速報のために行く意味はあるのか?と考えてしまいます。

もう一つは、展示会というシステムが言わば「互助会」に近く、人を集められる大手が出展するから名だたるリテイラー・ユーザー・プレスが参加し、その集客効果を狙って中小が参加する…と言う形になっていることです。
これは冷静に考えてみると、単独で客を集められる大手には特にうまみがない構造で「だったら自分たちだけでやるわ」って「気が付かれて」しまったら終わり…と言うのがバーゼルからのSIHH(リシュモン系)の分離であり、スウォッチの脱退だったわけで、後知恵で見るなら少なくともスウォッチがキレる前に何とかするべきだったのではという事です。
もっとも、1階の大型ブースはほとんど抜けてしまいましたが…

この不協和音自体はコロナウィルスのパンデミック関係なく2018年や2019年にも感じていたことですが、パンデミックという外力で一気に表面化したような形になります。
正直、2019年の年末を思い出してみると全くこんな状況は予想できておらず、「未来に生きてる」なという感じがします。
嘆いても良くなるわけではないので、今を生きるしかないかなというスタンスです。

WAWGが1月になかった代わりに本業で中国に行ったのも今考えてみればいい思い出になるかも…

2020年も暮れてきました、今年もWatch Media Onlineをご覧いただきありがとうございました。
2021年もよろしくお願いいたします、良い年末を!

CCFan

P.S.2019年のバーゼルの「象徴」として取っておいた花



ブースが無くなった空きスペースを目立たなくさせたいんだろうな…と言う気持ちが伝わってくる。