菊野 昌宏: バーゼル新作 WMO独占速報!

 By : KIH
菊野 昌宏さんのバーゼル新作をWatch Media Onlineで独占速報!

菊野さんのアトリエに行って参りました。閑静な住宅街の一角、1人だけの作業場なので広くはありませんが、きちんと整理された作業場。


こちらに引っ越されて約1年。静かな環境で仕事に集中できると、本人は満足の様子。

さて、前回はアトリエを見させていただいただけでしたが、今回はバーゼルに向けての新作を製作中とのことで、間もなく完成という状態の新モデルを取材してきました。


インスピレーションはこちらだそう:



へ? なんで「船箪笥」? という感じでしょうか。じゃあ、もちょっと。





菊野さんはこの本を見て、インスピレーションを得たそうです。うーむ、ですね。


では、このモデル製作の最初から解説を。

「黒四分一(くろしぶいち)」と呼ばれる合金があります。「四分一」という合金は、日本古来の「色金」と呼ばれる合金の1つで、銅と銀の合金。銀が四分の一であることから、「四分一」と呼ばれます(微量の金も入っているそう)。そして、「黒四分一」とは、この「四分一」を約40%、残り約60%を赤銅とし、さらに約1%の金も含有しています。これが、文字盤に使われる金属です。

もともとはこんな色です。



そして、作業していきます。まず穴を空けます。



そして、糸鋸で模様を切り取っていきます。



糸鋸作業が完了したものがこちら。これから模様を彫っていきます。



で、こちらをこの作業場(お風呂場です)で、「煮色仕上げ」します(お風呂場はもう1つあるので、大丈夫! - もちろん、終わったあとの「煮汁」はそのまま下水道に流せませんので、別途処理しなければなりません)。




すると!  真っ黒というか、ちょっと灰色がかった黒に。
こちらが完成版。



下の金属板が、上のようになるのです。




菊野さんの、日本古来の金属加工、あるいは利用方法などについての造詣にはいつも驚きます。以前作った「木目金(もくめがね)」も、日本古来の金属加工による美しい、2つと同じものはできない模様を持ったダイヤルでした。

木目金の作り方(菊野氏 ホームページより)

あまりに手がかかるため、生産本数は極めて少なく一応ディスコンとなっていますが、今回のダイヤルも船箪笥からヒントを得たという、純和風の味わいが「さすが」と思わせます。もちろん、糸鋸も含めてすべて手作業です。


ムーブメント

ダイヤル側





本作品は、初めてムーンフェーズを入れてみました。



こちらは裏側。




文字盤をはずすと。銅の板に、ムーンフェーズ用の穴と、家紋が乗っています。





プロトタイプですが、12時には「家紋」を入れています。むろん、カスタマイズ可能。ご希望ならここにスモセコも可能とのこと。船箪笥をモチーフに黒四分一の月が顔を覗かせていて、なんというか、江戸情緒というか、いい感じです。




このムーンフェーズは銀の板に、穴を掘り、黒四分一で作った「月」を象嵌細工の要領で嵌め込んだもの。手間かかってます。ムーンフェーズの精度は122年に1日。




ケースも「黒四分一」。経年でどう色が変化していくか、変化しないのか、それは菊野さんにもまだわかりません。・・・。




ベゼルと、ケースバックにはホワイトゴールド。




まだ未完成ですが、組み合わせてみるとこんな感じ。



ベゼルが花というか雪というか、やわらかな感じを出しています。







割と薄目でつけやすそうです。




大きさは、木目金が43㎜だったのに対して、このモデルは38㎜。日本人にピッタリくるサイズだと思います。木目金はやや大きいな、という印象でしたが、今回はムーンフェーズ付きでこの大きさ・薄さ。自分も普通にできる時計、という印象です。



という、バーゼル発表前に独占速報をさせていただきました。バーゼルで完成品を見るのが楽しみです。




ちなみに、菊野さんの現況をお知らせしますと、現在2本目の和時計の作成中であり、なんと! 3本目の注文も入っているそうです!

印籠和時計。うーん。素晴らしい・・・。これは菊野さん個人の持ち物。




3本目の和時計の制作を来年(2018年)前半にも終わらせて、この新モデルは早くても2018年の後半から受注・作成スタート、となりそうとのこと。いつものように、注文された方の好みに合わせてカスタマイズをしてくれます。12時の位置にある家紋は、必要でなければ、スモセコへの変更も可能とのこと。

受注開始までは時間がありますので、その間に黒四分一の色の変化等、ご自分で確認しながらアップデートしていただけることでしょう。


日本が誇るAHCI会員の菊野氏。作る作品すべて完売というか、受注が順調のようで、とてもお忙しそうです。しかし、クリエイターとしての本分を見失うことなく、必ず「考える時間」を勘案して製作スケジュールを組んでいる、というのはこちらとしてもホッとします。


筆者は、取材の後、すっかり奥様の手料理をごちそうになり、自分が持ってきたワインに酔いつつ、菊野邸で大変楽しい時を過ごさせていただきました。

菊野さん、奥様、ありがとうございました!


バーゼルに行かれる方は、是非、菊野さん(AHCI)のブースにお寄りになって下さい。


KIH