レデラー セントラルインパルスクロノメーターのルモントワールの進化を振り返る(答え合わせ)

 By : CC Fan

ご縁があり、発売中のクロノス2025年9月号(120号)にレデラーのCIC39についての記事を執筆させていただきました。

その際小型化のキモであるルモントワールデガリテの構造について過去の「推測」とベルナルド・レデラー本人から伺った話をベースにいろいろ書きましたが、原稿締め切り後に本国から図を含めた詳細資料が届き、「推測」が間違ってなかった…と言うことが分かりましたのでレポートします。



今年のWatches & Wondersシーズンに撮影したトリプル サーティファイド オブザベトリー クロノメーター(右)とそのデザインコードを踏襲したCIC39(左)。
5mmの違いですが、並べて見ると数字以上に小さく感じます。



基本レイアウトは一緒ながら、ルモントワールデガリテ機構を小型化しています。
これを追っていきましょう。



考え方のベースになるのは同軸に重ねられ、エネルギー蓄積用のスプリングで接続された3番車です。
周期的(レデラーの設計では10秒に1回)、入力を解放して一定角度巻き上げ、それ以外の時はエネルギー蓄積用のスプリングに蓄えられたエネルギーを使って下流を動作させることで主ゼンマイのトルク変化を脱進機まで伝えない仕組みです。
この「周期的に、入力を開放」するのをどう実現するか?というのが改善の歴史になります。



別の解決策であるフュゼ・チェーンは香箱の位置で定力にするものですが、輪列によるトルク変動を補償することはできないため、効果は限定的であるとベルナルド・レデラーは結論づけ、脱進機直前で定力化するルモントワールデガリテ機構を使用することにしました。


定力化のイメージをグラフで表します。
主ゼンマイのトルクは徐々に弱まるのに加え、加速輪列のかみ合わせに由来する脈動を持ちます。
徐々に弱まる成分はフュゼで吸収できますが、脈動は輪列由来なのでフュゼでは保証できません。

これをルモントワールデガリテのエネルギー蓄積用のスプリングに一旦蓄えることで安定化させています。
エネルギー放出に伴ってトルクは変動しますが、主ゼンマイを直接使うよりはるかに安定なトルクが得られることになります。


古典として知られる、ガフナー(Gafner)機構と呼ばれるルモントワール機構です。
ガンギに取り付けられたルーローの三角形カムでレバーを動かし、4番車のガンギ状の歯車を解放してタイミングを制御しますが、力が弱い(回転速度が速い)下流から力が強い(回転速度が遅い)上流を制御しなくてはいけなく、主ゼンマイのトルク変動に伴って解放に必要なトルクが変動するためあまりうまくいかなかったのか、主流にはな りませんでした。

というか、どっかで見ましたね、これ…
上手くいかなかったね!


結果的に主ゼンマイのトルク変動が伝わり、抵抗として発現するため、安定化に限界があります。

これの原因は弱い力(速い回転)で強い力(遅い回転)を制御しなくてはいけない、摩擦抵抗が大きい、軽量が求められるガンギにカムを設けることで重くなってしまう、ということがあげられます。



初期型のプロトタイプ、「ハリソンリスペクト」とも言っていたような…



ガンギの重量を減らすためにカムを4番車軸に、ルモントワール機構本体は3番車に移動させていますが、基本的な構造はガフナーと同じ、ルーローの三角形カムでアンクルを振ることで10秒に1回、爪が解放されてエネルギーが蓄積されます。
これもガフナーと同じく、弱い力(速い回転)で強い力(遅い回転)を動かさないといけないため、「押し負けて」止まってしまったり、力が逆流したりします。

このプロトタイプでガフナー型の限界を理解したベルナルド・レデラーは根本的な改善に取り組みます。
(カンタロスの話でも)繰り返し書いてきたように、ガフナー型の問題は弱い力(速い回転)で強い力(遅い回転)を制御しなければいけない、という点です。

ではどうすればよいでしょうか…



答えはシンプル、「制御対象の力を弱く(回転を速く)してやればいい」という事です。
30歯のガンギを僅か2歯の慣性(Inertia)ホイールに置き換えられました、ガンギでは1解放ごとに12度動きますが、慣性ホイールはほぼ90度動き、速度が速くなった分、相対的に力が弱くなります。
押し付ける力が弱くなれば摩擦も減り、レデラーの測定では解放に必要な抵抗が90%減ったとのことです。

これにより、ガフナーで発生していた解放抵抗の変化によるトルク変動は無くなり、ほぼ理想的なルモントワールデガリテを実現できました。

44mmでの完成を見た後、5mmダウンサイズしたケースに同じ機構を収める、目標でルモントワールデガリテ機構を完全に再設計することを行いました。

上記の図でもわかるように場所をとっているのはルーローの三角形カムとそれを読み取り往復運動を作るレバーです、どうにかならないでしょうか…



往復運動ではなく、慣性ホイールをブロックするカムを出力歯車にに成形し、それがダイレクトに入力歯車を制御する構造の「同軸構造」にまとめ直しました。

これにより4番車から取るよりもより上流で、ルーローの三角形カムとレバーという追加の要素のロスを介することなく、直接エネルギー蓄積のタイミングを制御することが可能となりました。
これにより、44mmでガフナー90%削減し、10%の残存摩擦を更に3%まで削減することに成功しました。


グラフでは理論的なルモントワールのトルク変動と一致し、パワーリザーブ全域において振り角を安定させています。

これはプロトタイプによる検証によってはじめてわかったことであり、ベルナルド・レデラーは以下のように語っています。

「時計製造に関する文献では決して疑問視されなかったことを、私たちはその限界を理解するために実験しなければなりませんでした」 - ベルナルド・レデラー

レデラーが「理論上は優れている」とされながらも、実際の効率と複雑さ、実装が追い付かなかったルモントワール(コンスタントフォース機構)に取り組み、39mm CICで正当性を証明しました。

構造の見直し、副作用の抑制、エネルギー伝達の制御など機構を隅々まで見直すことで実現し、効果を実証するように超複雑時計ですが、全数がCOSCを通した「クロノメーター」として精度をちゃんと追及しています、個人的にはこの点を最も評価しています。

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