ファーブル・ルーバ レイダー ハープーン インプレッション&機構詳細

 By : CC Fan

勢いがあり、当サイトでも何度か取り上げているファーブル・ルーバ(FAVRE-LEUBA)、その中でも特徴的なワンハンド(一本針)表示システムを持つレイダー・ハープーン(RAIDER HARPPOON)は気になっていました。
今回、ファーブル・ルーバ ジャパン様のご厚意により、実機をお借りして試す機会をいただいたので、インプレッションと特徴的な表示システムについての機構詳細を書きたいと思います。

まずはしばらく使ったインプレッションを。
ケースはヒストリーピースに範をとったクッション型のユニークなもので、一目でファーブル・ルーバとわかる独自性を持っています。



ダイバーズウォッチとして国際規格ISO 6425に準拠し、500m/1640ftの防水性を持ちます。
ステンレス・スティール製のケースも堅牢な上に、この防水性があれば日常生活での扱いで気を使うことはほとんどないでしょう。

リュウズが二つあり、2時位置は飽和潜水時に使うヘリウムガスが時計内に溜まった場合に抜くためのヘリウムエスケープメントバルブ、4時位置は通常のリュウズで、両方ともネジ込み式です。



ヘリウムエスケープメントバルブにはヘリウムの元素記号Heが、通常のリュウズにはファーブル・ルーバのエンブレムが彫り込まれています。
ネジ込みリュウズを使うのは初めてでしたが、ネジをキャッチする感触もわかりやすく、扱いに不安は感じませんでした。



最も特徴的なワンハンドの表示システムは、極限状態に近い潜水時、最も重要な分単位の経過時間を確実に読み取ることを主眼に開発されました。
このために針は分針(通常の時計の長針)に相当するワンハンドのみとし、時間は短針ではなくディスクを使った別の方法で表示するようになっています。
言葉だけではわかりにくいので、公式の動画を見てみましょう。



ワンハンドは1時間で時計方向に1回転する通常の分針の動きです、それに対し周りの12等分されたアワーインデックスに相当するディスクは1時間で時計方向に11/12回転します。
この回転速度の差により、ワンハンドはディスクに対して1時間で1/12回転分進んでいることになり、12時間で1回転すると言えます。

これはディスク側を固定して見ると、通常の時針(短針)の動きと同じになり、ディスク側を動かすことで1本の針に時針と分針両方の機能を持たせています、言い換えれば短針と長針が常に重なるようにインデックス側が動いていると見なしてもいいかもしれません。
回転としては一時間に1回転と11/12回転しかないにもかかわらず、その"差"を使うことで時間を表示するという一種の差動装置といえるのではないでしょうか。

こうやって書くと複雑ですが、読み取りは単純で、分は普通の時計と同様に、時はその時に針が指しているインデックスを通常の短針と同じように読みます。

使っていて一番驚いたのはこの表示を読むとき、慣れている分表示とユニークな時表示という対比で、分→時の順番に読んでいることから、"普通の時計は時と分を同時に読んでいるつもりだったが、時→分の順に順番に読んでいた"という事実に気が付いたことです。
そんな驚きもありましたが、しばらく使っていれば何の問題もなく読めるようになりました。



流石に500m防水を実現するケースはマッシブです。
今回お借りしたものはラバーベルトでした、このほかにカーフスキンベルトとメタルブレスのものもあります。
ダイバーズウォッチとしては邪道かもしれませんが、メタルブレスやカーフベルトも試してみたいです。



ブルー文字盤はきれいに整えられています。
オレンジ色を指し色に使ったモデルでは文字盤は黒となります。

アプライドインデックスと針には夜光塗料が塗布され、暗所での視認性を確保しています。
分針を主眼にしているため控えめな中央のディスクは秒針です、針に相当する突起はありますが、秒針というより動作インジケータとして使うのが正解でしょうか。



ちょっと指紋が見えますが…
ケースサイドはクッション型の文字盤側とラウンドに近いボトム側を有機的につないだような形状です。



ケースバックは実用機として潔いソリッドバッグです。
当然防水性のためにスクリューバックですが…なにか気が付きませんでしょうか?

なんと、ネジ込みにもかかわらず、ロゴや各種表示がちゃんとした向きになっています!
周辺の爪位置を見ればわかるとおり、スクリューバックではネジ込みきった位置は個体差でばらつくため、ロゴなどもばらついた位置になってしまうはずです。
国内メーカーでスクリューバックを採用しているメーカーの例ではサンプル写真はちゃんとした向きにしてあるものの、"裏ぶたの向きは実際と異なる場合があります"と律義に書いてあるところもあります。
これを実現している方法は機構詳細で改めて検討しますが、表示を正しい向きにするためにここまでしたのは素晴らしいと思います。



ラバーベルト、穴は幅広のつく棒に対応した長方形です。
"FAVRE LEUBA"がかたどられており、ブランドのために作った専用品であることがわかります。



こちらは尾錠側。
"FAVRE"はボケてしまっていますね…
尾錠と遊革もダイバーズ仕様の頑丈さです。



12時側と6時側を合わせるとこのような感じです。



リストショットではこんな感じです。
私はもともと大きい時計を好むとはいえ、公称値46mm径のハープーンも特に問題は感じませんでした。
これはクッションケースとラグが一体化したような構造のため、ラグが短く、公称値から想像されるよりもベルト取り付け位置の間隔が狭いためと思われます。



ただ、本体がかなり重たいためラバーベルトと尾錠ではバランスが取れないかなと思うことはありました。
このことについてはビバーグのお披露目会で開発者に伺ったところ、"ダイバーズウォッチではターゲットとしている環境(=水中)では浮力が働くため重さはあまり問題にならず防水を最優先したから、また沈むためのウェイトとしても機能する"とのことでした。
絶対値というよりもバランスの問題なので、メタルブレスに変えてみたり、Dバックルの設定があればまた違う印象かもしれません。

全体としては手持ちの時計(通常防水ドレス・通常防水スーパーコンプリ・強化防水ドレス)と比較しても、はるかに頑丈そうで、気兼ねなく使うことができ、使うための時計としてお勧めできます。
特にユニークな表示は唯一無二の魅力と言えると思います。

さて、機構についてもファーブル・ルーバ ジャパン様から色々伺ったことを書きたいと思います。



まずは、ファーブル・ルーバ ジャパン様提供のヒストリーピースのハープーンの写真です。
ユニークなケースの造形を引き継いでいることがわかります。

ユニークなディスク表示は信頼性のある汎用ムーブメントに自社開発の表示モジュールを追加する形で実現されています。
これは、実現方法として信頼性と独自性を両立させやすく、個人的には好印象の手法です。



これが自社開発の表示モジュールです。
通常の分針を駆動する筒カナから、2つの変速歯車を経由してディスクの内歯車を駆動するシンプルな構造です。
ディスクは裏にある銅色(ベリリウム銅?)のばね部品で文字盤に押し付けられ、同時に摩擦によるブレーキでガタを防いでいると思われます。
ディスクが外周部を塞いでしまうため、文字盤は筒カナ近くの3本のビスでモジュール本体に固定されます、このビスは秒針ディスクが隠すため通常時には見えません。



これは風防と文字盤を別方向から構成要素を分解した図で、向かって右側から、押さえバネ、回転するディスク、文字盤本体、分針、秒針、それ以降はベゼルと風防の構成要素です。
ディスクは文字盤にブレーキを兼ねた3か所の押さえバネで押し付けられ、3点支持になっています。
文字盤がディスクの凹部にはまり込み、内側を支える構造が見て取れます。



これはケースとムーブメントの構成要素を分解した図です。
向かって左側から、変速歯車、表示モジュール本体、汎用ムーブメント、防磁リング、それ以降はケースとケースバックの構成要素です。

こうやって見ても表示モジュールを構成する部品はそれぞれが大きく作られ、かつ全体の構造はとてもシンプルで、故障の原因にはなりにくいと考えられます。
"使う時計"として信頼性はとても重要なので、汎用ムーブメントの信頼性と相まって良い設計だと思います。

最後にケースバックの文字がちゃんとした向きにそろえられていた機構です。



これはケースと風防、回転ベゼル、ケースバックだけ取り出した分解図です。
仕組みとしてはシンプルで、ケースバックは向かって右側のドーナッツ状のスクリューバックとセンターのロゴや各種表示が書かれた部分に分かれています。

ロゴや各種表示が書かれた部分はケースに対して一定の位置で仮止めされ、その状態でスクリューバックを締めればスクリューバックがどんな角度でも表示は仮止め位置に止まったままになるという仕組みです。
防水性が気になりますが、ロゴや各種表示が書かれた部分とスクリューバックがかみ合う部分はすり鉢状になっておりかつOリングが入れられているため、スクリューバックを締めることによりOリングとすり鉢の篏合で隙間が埋められるため問題なさそうです。

また、こうやって見ると風防も半端ではない厚さに見えます。

今回のインプレッション、もちろんレイダー ハープーンは素晴らしかったですが、このように書いてまとめることで、自分が機械式時計に求めているものは"他の機種またはブランドにない+α"だということがわかりました。
ファーブル・ルーバが"冒険"を通じて訴求するユニークな機構はどれも魅力的です。

次は機械式高度計を備えたビバーグ9000を取り上げたいと思います。

ファーブル・ルーバ ジャパン様、ありがとうございました!


【レイダー・ハープーン】
ケース径:46.0mm
ケース素材:SS
防水性50気圧 / 500m
自動巻き
価格:534,600円(8%税込)




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