カンタロス緊急里帰りと独立系(に限らない)のダウナーな話(追記あり)

 By : CC Fan

カンタロス、止まりました(挨拶)。



※この先に書いたことは、鬱積した負の感情と情報が発露した気が滅入る文章であり、"夢を壊す"話に他なりません、取扱いにご注意ください。
※2018/6/3 コメントをいただき、それによって広がった視点を追記しました


…というわけで、SIHHで検品し、2月に受け取ったクリストフ・クラーレ(Christophe Claret)のカンタロス(Kantharos)ですが、コンスタントフォースの脱進車がロックして停止する症状が再発しました。
振れば直る程度の軽傷(軽傷とは…)ではありましたが、クリストフ・クラーレ本国のサービス部門と相談した結果、一度本国に戻し、同時に制作され、耐久試験中だった検証用ムーブメント2台と比較することが決定しました。
な ぜ か 丁度良いタイミングで来日していたインターナショナル・コマーシャル・ディレクターの二コラ(Nicolas Gigaud)に渡してくれたらハンドキャリーするということで、金曜日に渡してきました(クリストフ・クラーレ本人は別イベントに参加するため、別行動で来日せず)。

バーゼルの時にはタイミングが合わず、会えなかった二コラと色々話すこともでき、現状の展開の問題点、今後の進め方についても良い意見交換ができたと思います。
正直、最近のクラーレ社のやり方は無条件で応援したい(CC "Fan"ですので…)と思っているタイムピースオーナーの私から見ても呆れるようなことが多かったので、この機に良い方向に進んでくれることを期待します。

さて、カンタロスについてはオーナーという立場であり、全てを理解し伝え、あわよくば読んだ方もオーナーになってほしいという気持ちからあえて里帰り(今回で6回目)など、悪いところも余すことなく伝えてきたつもりです。
以前も書きましたが、好き嫌いと機械的な正しさは別であり、凝り固まった"正しいから好き"という考え方から抜け出せたことは時計趣味としても人生経験としてもよかったと思っています。



私はクラーレ本人・会社組織としてのクラーレ社を信じており、カンタロスは最終的にはちゃんと動くようになるという強い確信があります。
なぜなら、彼らは私の話を聞き、使い方を問題視する(私のせいにして責める)のではなく、機構の問題と捉え、改良に取り組んでいます、この姿勢であれば改良を重ねていくことにより、いつかは完璧に到達できる…と信じられるからです。

また、責められてはいませんが、自省として"使い方が荒いのではないか?"ということは顧みました。
複雑性は全然違い、単純比較はできませんが、チャペックのケ・デ・ベルクほぼ同じ条件で1年使い続けても問題が起きないことから、即座に問題になるような使い方の荒さはないと判断しました。

先ほど、"カンタロスについては"と書いたのは、ほかのクラーレのタイムピースやほかの独立系についてはネガティブな情報や欠点はなるべく書かないようにしていたからです。
しかし、よくよく考えてみると、知りえた欠点を隠し、"独立系はこんなに素晴らしい"とだけ賛美するのは無責任ではないか、それを信じて独立系のオーナーになった方が、手に入れてから欠点を知り、"こんなはずではなかった"・"売り文句だけは良い"と思われてしまうのは欠点を知らせたことより悪い結果になっているのではないかと思い至りました。
なにより、WMOは時計ユーザーによって運営される時計ユーザーのための日本初の時計メディアなのに、ユーザーの不利益になる欠点の情報を隠すのは売り手側の理論ではないかと自問自答しました。

思考実験として非常に雑ですが、あるコレクターが事前知識なし・思い入れ無しで自分と同じ目にあったとして、カンタロスを手放してしまわないかと考えました。
恐らく、ほとんどは手放すでしょう、しかし、事前にネガティブな情報を見てそれでもと思って覚悟して挑めば、手放さないかもしれません(覚悟していただくのが一番難しそうですが)。

更には正直な話、カンタロスやクラーレ社より遥かに酷い話を聞いてしまい、相対的にクラーレの株が上がったことも何度もあります。

というわけで無責任な賛美だけではなく、欠点も伝えよう…というのが本題で、今後の記事では知りえた欠点も伝えますという宣言になります。

現在知っている事例に関してはいきなりブランド名を出すと流石に怒られそうなので、事例だけ。

内容については、カンタロスは"たまにロックして止まる"、"自動巻きが巻き上げない"程度でしたが、他のブランドでは"いきなり精度が出ない"、"日差が分単位"、"初期不良率が50%を超える"、"機構を動かし続けると壊れる"、"止まる"、"仕上げの品質がばらつく"など、こうやって見るとカンタロスはまだまだ普通に見えてきます。

対応では、クラーレ社は本国送りになる以外は良い対応だと思いますが、他のブランドでは"頑なに欠陥を認めない"、"故障は全てユーザーの責任とする”、"修理にやたら時間がかかる"、"オーバーホールコストが内容のわりに高い"、"日本で直せない(全部本国送り)"、"工房見学で見た時計師の予定がリペアで埋まっている"などでしょうか。

総じて品質保証や検証といった生産数と時間をかけて熟成しないといけない事案はそもそもの生産数が少ない独立系では不利であるというのは以前も感じました。
また、生産数が少ないため故障した事例が悪目立ちしているという面もあると思います。
大手に比べると絶対的なサポート・メンテナンスのリソースが少なく、同じサービス基準というのは厳しいでしょう。

小さな組織でユニークな作品作りが行えるのが独立系の良いところと感じますが、それがそのまま弱点にもなるというある意味当たり前の話を長々と書いているだけな気がしてきました。
そんなことは知っているよ、何を当たり前のことを、と言われそうな気もしますが、ある意味自分への戒めとカンタロスとクラーレに対する鬱積した感情の発露です。

願わくば、このような文章を書くのはこれが最後で、次は流石クラーレ!と言えるように…

2018/6/3追記 新しい視点

怒られるかと思ったこの記事ですが、ありがたいコメントをいくつもいただくことができました。
コメントはこれから返しますが、それに先立ちコメントにより得られた新しい視点を追記します。

KIHさん曰く、「どれだけ責任感の高い店からあるいは代理店から買うか」というのも同様に重要なことというご指摘がありました。
このことを失念していたのは、幸運なことに今まで時計のご縁があったお店・代理店の方々が良い方ばかりで、問題と考えるような無責任な扱いを受けたことがなかったからです。
名前を出してしまいますが、銀座ジャケ・ドローブティックの林店長、私の記事では"おなじみ"のノーブルスタイリングの葛西氏・山口氏の名コンビ、何も知らないときは彼らの時計に対する知識と考え方・顧客に対する対応が当たり前であると思っていましたが、実情を知れば知るほど相当に稀少で高いレベルであり、最短の時間(時計趣味を初めて1年以内)で知り合うことができたのは幸運としか言いようがありません。

さて、はっきりと言っておきたいこととして、私はクラーレ社と直接話をしていることを公言していますが、これは代理店の怠慢というわけではなく、契約が不透明な状況でなるべく迷惑をかけないためと、私もエンジニアなので伝達レイヤーを減らし、本国の技術者と直接ディスカッションするために自らやっていることで、輸出入書類など要所要所ではノーブルスタイリングさんにお願いしています。

しかし、普通はここまでやらず(クラーレ社曰く"外部テスター")、コレクターから見たブランドの"顔"というのは販売しているお店、または卸とサポートを行う代理店になり、ブランド本体より重要かもしれません。
残念ながら独立系に限らず、ブランドは良いが、お店・代理店が酷いという話もいくつかは体験したり聞いたりしています。

こちらも事案だけ、"ブランドの価値を自身の価値と同一視して傲慢な態度"、"商品知識がなく簡単な質問にも答えられない"、"サポートが場当たり的(基準となる価格すら決めていない)"、"SNSで公式アカウントが他社の悪口で盛り上がる"、"客の時計を貶す"、"露骨に値踏みする"、"ケースから出してくれない"、"本国を鵜呑みにして顧客の話を聞かない"、"総代理店が交代したブランドで自社販売分以外を差別する"…覚えがある方もいるのではないでしょうか?

特に、サポートに関しては販売と比較すると直接利益になるものではなく、いわば将来の信用のための投資なのでで、ケチろうと思えばいくらでもケチることができ、浮いた分を値段に還元すれば短期的には売り上げを立てて売り逃げることができます。
サポートが適当・答えられないというのは信頼を失っても良いので儲かれば良いという態度の表れだと認識しています。

a-ls編集長曰く、使用して初めて分かる情報を得られますと言うご指摘で、おそらくカンタロスは売れてない上に使われていないんだろうな…と思い至りました。
コレクションとして多数持っていて、ケースにしまっていてたまに使う程度であれば私が問題視している現象にはおそらく気が付かないと思われます。
立場上、絶対に言えないでしょうが、"毎日使うなよ"というのはクラーレ社も思っているかもしれません。

現実がどうであれ、時計である以上毎日使うのが本分と考えており、どんな超複雑時計でも実用性という視点は入れたいと思っています。
ある意味、矛盾していますが…

うおぱいさん(ご無沙汰しています)曰く、とにかく良いところをガンガン押す感じで、負のイメージを持たれることってまず言わないですよねとのご指摘で、先に挙げた"良い方"は良いところだけではなく、ブランド的にあまりよくないところも"事実"として伝えてくれたので信じられたのかなと思い至りました。
あと、ガンガン押すのはどうもマニュアルがあるっぽいので、ちゃんと理解してないのかもしれません。

正直、ノーブルスタイリング山口氏(曰く、"僕は"人を選んで話をしている)、葛西氏(多分、選んでない)は客観的に見るとそれ大丈夫なのか!?という話もするので、逆にヒヤヒヤすることもあります。
あの正直さは貴重ですが、"夢が壊れる"リスクもありますね…

関連 Web Site (メーカー・代理店)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/