CZAPEK雑感と日本初発注

 By : CC Fan
さて、チャペックについて紹介してきました。
タイトルでネタバレしていますが、木曜日のイベントでとあるモデルに心を奪われ、土曜日に発注してノーブルスタイリングさん扱いになってから初めてのオーナーになりました。
ブランド哲学に対してと発注に至るまでの雑感を記しておきたいと思います。

ブランドについて

過去の偉人・偉業を"復活"させる試みは大手・新興限らず多く行われていますが、チャペックは手付かずでした。
これは、栄光を極めたものの会社清算後がはっきりしないことで権利関係がクリアでないこと、どうしても触れる必要がある元パートナーのアントワーヌ・パテック(言わずと知れた某大ブランドの創業者)の扱いをどうするかと言う事が難しかったからのようです。
関係者曰く色々な事情があって残っていたのは"奇跡"とのことでした。
これらの問題を解決するため、まずは徹底的な歴史調査と権利の確認を行いクリアにしてからブランドを立ち上げたようです。
ただ、個人的な意見を言わせていただければ、"復活"したブランドの場合は歴史はあくまでアクセントに過ぎず、製品そのものの魅力がないと存続は難しいと思っています。
今回、私が発注に至ったのも歴史よりも現在の製品とそれに関わる人々に魅力を感じたからです。

水平分業について

個人的に最も注目するべきは、水平分業とサプライヤーを表に出した製品作りだと思います。
言ったもの勝ちの様相を呈してきている"自社ムーブメント"や"垂直統合"で大手と競い合ってもまず勝ち目はないですが、スイス時計作りの伝統に則り、それぞれの専門工房の得意とするコンポーネントを組み合わせて作る水平分業であれば、要所要所を押さえることで充分に差別化した製品を作ることができます。
また、新興であり大手グループに属していないために、グループのしがらみに縛られず、一流のサプライヤーを使うことができるメリットもあります。
例えば、エナメル文字盤はドンツェ・カドラン社(ケリンググループ)、ケースはLAB社(サンド財団)といった具合です。

Webサイトにて水平分業サプライヤーのリストを公開しています。
時計業界ではすでに確固たる地位を築いている会社や、新素材のために新しく参入した会社が確認できます。

ムーブメントについて

機械を偏愛する私としてはムーブメントを改めて掘り下げておきたいです。

ムーブメントも水平分業の原則に則り、ル・ロックル(Le Locle)にあるクロノード(Chronode SA)が供給しています。
これは時計師ジャン・フランソワ モジョン(Jean-Francois Mojon)が率いる、ムーブメント専業のサプライヤーです。
ノーブルスタイリングさんが扱っているHYTやBREVAをはじめとしたさまざまなブランドに複雑ムーブメントを供給しています。
クロノード自体は複雑系まで作る能力がありますが、今回製作されたのは三針スモールセコンド・パワーリザーブインジケータというシンプルまたはプチコンプリケーションなムーブメントです。

ムーブメント単体で見てみましょう。


ムーブメントSXH1

デザインモチーフであるNo.3430のオープン・ラチェット(角穴車)を模した巻き上げ輪列が見えます。
7日巻きを支えるツインバレルを要しながら、ムーブメント厚みは4.48mmと薄く作られています。
ムーブメント直径は31.10mm(13 3/4リーニュ)と大きく、42.5mmのケースに相応しいサイズになっています。
メインのプレートはネジ3本、二つのブリッジもネジ2本で固定され、非常にガッチリとした作りです。
専用設計のムーブメントだけあり、特徴的なスモールセコンドを秒の歯車で直接回す設計になっており、余計な中間車が入っていたり汎用ムーブメント+表示用モジュールのような作りではありません。

追記
最小限必要な歯車に対し、ピニオンが1つ追加されたような構造になっていました。
これはオリジナルの3430の意匠を引き継いだものだと思われます。
詳細はこちらをご覧ください。

振動数は6振動/秒(3Hz)で、クラシカルな様相に相応しいロービート機です。
緩急調整は緩急針方式で、最近流行りのフリースプラングではありませんが、個人的にはそこに価値を見出せないので特に構いません。
ムーブメント自体は新規設計ですが、それぞれ十分検証されたコンポーネントの設計を利用して作られているとのことで、信頼性は高いと思います。

写真で見るとコート・ド・ジュネーブなどはなく、仕上げが簡易に見えるかもしれません。
しかし、すべてのブリッジを肌理の細かいサンドブラストで仕上げたのち、エッジとサイド部分をポリッシュするという手間のかかる方法で仕上げられています。


サンドブラストとエッジとサイド部分のポリッシュ仕上げ

この仕上げによってデザインモチーフとなった19世紀の懐中時計を模した仕上げのまま更に質感を上げています。

めったに見られない文字盤側も。


SXH1ムーブメント (文字盤側)

こちらは地板なので、面取りは行われていませんが、サンドブラストによって表面は整えられています。
ブリッジやプレートを固定するメネジは地板に直接ねじを切るのではなく、ナット部品を圧入して作ってあります。
これにより万が一メネジを破損したとしても圧入部品を取り換えることで再生させることができます。
筒車の真下に伸びているレバーが示しているように秒針停止機能があります。
高級機への搭載は賛否両論ありますが、個人的にはあって困るものではないし良いかなと思っています。

チャペック自体はジュネーブにヘッドクォーターがあるブランドですが、クロノードやその他のサプライヤーはほとんどがジュネーブ以外にあります。
そのためか、ジュネーブシールについては取得していないようです。
今考えれば聞けばよかったと思います。

既報の通り、ムーブメントは全バリエーションにおいて共通で、差別化は行われていません。
ただ、これは200個(後述)と生産個数が少ないので差別化した方が高コストになりかねないと言う事や、自動巻きのローターやシャトン付きの石など差別化しやすい部品がないことに由来するかもしれません。

ケースについて

個人的にチタンのREVOLUTIONケースは傑作だと思います。
XOスチールのモデルと比べるとチタンモデルはベゼルがマットのサテン仕上げになっており、チタンだしマットなのかなと思ってしまいます。
しかし、サイドを見ると見事なポリッシュ仕上げになっていて、マットなベゼルは"わざと"であることが分かります。

また、REVOLUTIONケースの特徴であるサイドの溝の内部はサンドブラストで仕上げられ、サイドのポリッシュとコントラストを表現しています。
チタンケースそのものの写真を撮り忘れたので、XOスチールケースです。


REVOLUTIONケース (XOスチール)

肝心の溝はあまり写っていませんが、比較のためチタンケースも。


REVOLUTIONケース (チタンケース)

REVOLUTIONケース自体が、よくこんなモノを作るな思うレベルの構造なのに、ここまで仕上げられるともう脱帽です。
ADLCモデルではそのまま均一にコーティングをかけて全体を黒くしています。

また、掲載した写真でお分かりかもしれませんが、昨今の時計としてはベゼルがしっかりとられており、ケースに対して文字盤が大きすぎないデザインです。
ケース径が42.5mmに対し、ダイヤルが36.4mmなので、ベゼル幅は3.05mmです。
カンタロスもそうでしたので、私はこういうベゼルがしっかりしたデザインが好きなようです。

限定数について

全てのタイムピースは限定という形をとっていますが、シリアル管理がユニークな方法なので紹介させてください。
あらかじめ素材ごとの限定数は決まっているのですが、ケース上はすべて〇〇〇/188という表記になります。
この188個(予備を入れて生産は200個)は"First Edition"の生産総数で、シリアル番号と一緒に"First Edition"という刻印がケースに刻まれます。
"First Edition"を売り切った後は、"Second Edition"の総生産数を決めて同じ方法でリピートするというわけです。
現在のシリアル番号はCEOのXavier氏が自ら管理しており、どのケースが最も"レア"かという情報などを教えていただきましたが、公表は流石に控えさせていただきます。

発注に至るまで

とりとめもなく書いてきました。
モデルごとの感想の量ですでに分かってしまったかもしれませんが、発注したのはノーマルのチタン(No.27)です。
決め手になったポイントを羅列すると、こうなります。
  1. Carbon Vinylダイヤルの第一印象
  2. 関わる人々の魅力と信頼
  3. チタン製REVOLUTIONケースの仕上げ
  4. クロノードのムーブメント
  5. ストラップのラインナップ
  6. Something special
順にみていくと、まずは何といってもCarbon Vinylダイヤルの素晴らしい見た目です。
いまだかつてない巻いたカーボンを輪切りにしてレコード盤状の文字盤を作るという発想にやられました。
同じ素材を使いながら、片方がマット、もう片方は光をとらえて輝くという対比もたまりません。

次は関わっている人々の魅力と信頼です。
本国のChairmanのHarry Guhl氏、CEOのXavier de Roquemaurel氏と葛西社長、山口マネージャーをはじめとするノーブルスタイリングさんのスタッフへの信頼感です。
特にCEOのXavier氏は私の拙い英語での変な質問にも真摯に答えてくれました。


CEO Xavier de Roquemaurel氏

本当に時計が好きで、チャペックの魅力を現代に復活させたいという熱意を感じることができました。

REVOLUTIONケースとムーブメントについてはすでに書きました。
高級機に使われることも多いクロノード社製のムーブメントを載せてこの価格というのはある意味サービスかもしれないという下品な考えもあります。

ストラップのラインナップというのは、カンタロスを補完する存在としての要件です。
カンタロスは特殊なストラップ固定システムにより純正ストラップしか使えず、クラーレ社はアリゲーターしか用意してくれません。
そのため、夏場に使える時計が欲しいと思ってはいて、候補がいくつか出たものの購入に至るものはありませんでした。
チャペックは将来的にはラバーストラップまで用意する準備があると言う事と、通常のバネ棒なのでなんとでもなると言う事から補完にはぴったりです。
汗に強いチタンのREVOLUTIONケースは強化防水(5気圧)なのも心強いです。

最期のSomething specialはChairman、CEOと自ら話せる機会ということもあり、カンタロスと同様にいくつかの"ワガママ"をお願いさせてもらいました。
流石に荒唐無稽でNGが出てしまった案もありますが、日本の初オーダーと言う事でかなりの部分を聞いてもらい、自分の理想に近づけることができました。

納品されましたらまた紹介したいと思います。

最期になりますが、本国スタッフとノーブルスタイリングさんの集合写真を掲載させていただきます。



関連 Web Site

CZAPEK Geneve
https://czapek.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/