ショパール: 時計好きを自負する男性諸君、ショパールは女性アクセサリーブランドではない! - 工場見学レポート #1

 By : KIH
刺激的なタイトルですみません。確かに、ショパールは女性用アクセサリー「も」作っていて、それらは「カンヌ映画祭」の公式ジュエリー提供ブランドでもあり、名声は世界中にとどろいているのはご存知の通り。

しかし、時計好きの私にとってはそんなことはどうでもいいこと。何しろ、いわゆる「ブランド物」には全然興味なく育ち、時計が趣味になってから知ったショパールは私にとっては時計ブランドなのです。

時計趣味歴はそこそこありますが、ショパールは私が比較的初めの方から、「素晴らしい!」と思っていたブランドの1つです。なにが素晴らしいって、我々世代の時計好きでは当たり前のことですが、「機械が」です。別に、ダイヤモンドがついているわけでもないですし、ゴテゴテとした「主張する」時計でもありません。とにかく、L.U.Cという機械がすごい、と思ったのです。

もちろん、読者の中には、中身など関係なく、外側だけで選ぶ方もいらっしゃるでしょうし、それは趣味ですからちっとも悪いことではありません。ここは、私の主観で書かせていただきますので、ご了承ください。でも、中身やどうやって作っているのか、何が違うのかがわかってくると、時計好きの世界も広がってきますよ。私は割と偏ってしまうので、たくさんのブランドをフォローしているわけではありませんし、好きなブランドが多い方でもありません。しかし、ショパールはこの趣味を始めてから比較的早くに私の頭の中に入って来たのです。

今回、ショパールさんにご好意により、工場見学をさせていただきました。ショパールには2つの工場がスイスにあります。ジュネーブ近郊と、ジュネーブから車で2時間弱のフルーリエという場所にあります。

ジュネーブ工場では、主にケースその他部品の製造、L.U.Cムーブメントの組み立て、ケーシング、ジュエリーのデザイン・製造ななどが行われています。すごいことはたくさんありますが、例えば、金の延べ棒を溶かして自分の工場でケースまで作るブランドはいくつくらいあると思いますか? スイスでは、ショパールとロレックスの2社だけです。

そして、フルーリエ工場では、L.U.Cムーブメントの「キット」が作られジュネーブに送られますし、すぐそばにあるフルーリエ・エボーシュ工場では、ミッレ・ミリアやスーパーファスト等が作られ、組み立てられています。また、昨年ジュネーブ時計グランプリを受賞した、フェルディナント・ベルトゥーの工房もありますジュネーブ時計グランプリですよ。ただ者ではないですよね。

まだまだいろいろなことをしているショパールの時計工場ですが、数回に分けてレポートしていきたいと思います。

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まず第1回目の今日は、ジュネーブ工場について書きましょう。写真が多く長くなりますが、最後までお読みいただけると幸いです。

ジュネーブ近郊のいわばメイン工場。ここでは、ケース製造、パーツ製造、研磨、組み立て、ジュエリーデザイン・製造等々が行われています。写真には2棟しか写っていませんが、とにかくでかい。ほぼ全部の建物がガラスの廊下でつながっています。

この工場には750人が勤務。うち、450人が何らかの職人で、残りの300人が、人事、PR、マーケティング等のサポートスタッフ。




まず必ず通されるのは、先ほどもちょっと触れましたが、金の延べ棒を溶かして、加工しやすく薄目の板にする工程。
繰り返しますが、ここからスタートするブランドは、スイスではショパールとロレックスだけです




これが、「炉」というか、金を溶かす機械。






右側が、通常購入している金のブリオン。左側が・・・。




いわゆる、「Fairmined」ゴールド。主に南米から輸入していますが、これは通常の金と何が違うかというと、掘る過程から流通経路まで、社会的に問題のない(子供を使っていないとか、途中に反社会的ミドルマンが入っていないとか、社会的に「正しい」方法で採られた)金である、という証明書付きの金。ショパールは、上場会社ではありませんが、社会的正義にも気を遣って時計を作っています。




そして隣の部屋には、そうやって作ったケース用金属の板を型取りして、叩いて叩いて(Forge、といいます)形を整えていきます。叩けば叩くほど、内部の分子構造が詰まっていき、より安定した、均一な表面を生み出すのです。大体20回近く叩いて、最終形近くに持って行きます。




これはサンプルですが、最初はこうだったのが、だんだんこうなっていく、という例です。




さらに、時計ブランドとして最低限期待したい、ケースの鋳型の倉庫です。過去に作ったモデルのすべてのケースの型が2つずつ保存されています。どんなに古いショパールの時計でも、もしケースが磨きで直らないほど壊れても、ここで再生することができます。さらに、万が一の為に、必ず2つ型を保存しているのです。

写っているのは、このあと2日間にわたり相手をしてくれた、クライアントサービスのセドリック・ラフォージュ氏。




叩きながら、ちょっとずつ磨いていく部分もあります。








そして、次はちょっと変わった部屋ですが、ブレスレットを作る部屋でした。














さすが、渋い時計をしていらっしゃるベテランの女性でした。






ここが、一番広い部屋、機械室というか、いわゆるNC旋盤で、ケース加工やその他の部品加工をしています。




チタンの棒です。ここから削っていきます。その他、あらゆる金属の棒がここにはありました。
















そして、ここには、新たなフェルディナント ベルトゥーのケースも!




ちなみに、通常の金と、上記Fairminedの金とは絶対に混ざらないように別の機械を使います。




ショイフレ共同社長というか、ショイフレ家が気に入っている、日本庭園その1.見てると落ち着くんだそうです。うれしいですね。




これは、カンヌ映画祭で使われるトロフィーの型、ですね。




我がヒーロー、ジャッキー・イクス氏。






L.U.Cの組み立て室に来ました。
そもそも、L.U.Cってなんだ? という方もいるかもしれません。
ショパールは、Luis Ulysse Chopard(ルイ・ユリス・ショパール)という人によって設立されました。そのイニシャルを取って、L.U.Cという高級ムーブメントを作っているのです。この中の各モジュールは、2日目に訪問する、ジュネーブから車で1時間半くらいの、「フルーリエ」という場所にある工場で作られます。
なぜジュネーブで組み立てるか? ジュネーブ・シールというのは、ジュネーブで組み立てられなければならない、という決まりがあるのです。。。




入る前に・・・。これは新しい!









マスター ウォッチメーカー。







ちょうど、フルストライクが組みあがったところでした。






聴いてみましょう!




お次は「ケーシング」。こちらはクォーツムーブメントを女性用時計ケースに入れていますね。




こちらは男性用。









そして次の場所に行く廊下からは、日本庭園その2が見えます。




セレブリティーの写真が続く階段の上には・・・。







ハイジュエリー工房。




ここでは、1人の職人が作品を最初から最後まですべて責任をもって組み上げます。それだけに、熟練工の方々ばかり。一流の俳優さん、女優さんに着けてもらうのですから、相当のテクニックと素晴らしいデザインが必要ですね。












さて、そして、ジュネーブ工場内に2015年にオープンした、ショパールミュージアム。
















こういう歴史的な名機がたくさんあります。




なんと、ベルトゥーもこちらに。
というのは、フェルディナント・ベルトゥーというブランドは、元々、現共同社長である、カール・フリードリッヒ・ショイフレ氏が個人的に好きで収集していた昔のブランド。そこへ、ある日ある時見知らぬ人から、「ベルトゥーのコレクションを見せてほしい」と。ショイフレ氏は聞きました。「なぜ?」。すると、先方が言うには、自分たちはベルトゥーのブランドの権利を買ったのだが、新たに作る時計のインスピレーションが欲しいのでコレクションを見たい、と。ショイフレ氏は、今のところどんな時計を考えているのかを聞きました。出てきたのは、xxxxxやyyyyyにそっくりな、とてもショイフレ氏としては、ベルトゥーの名前をつけるにはあまりに「ひどい」デザインばかりで、それなら自分がやる、と、彼らからブランドを買い取って、自分でベルトゥーのブランドをまた1から立ち上げ新たな時計を作り、2016年にグランプリを受賞したのです。








そして、ランチの時間。
ここは、全社員が使える食堂。しかも、一流のシェフが料理します。
そして、ここはショイフレ家も毎日ランチを食べにくるそうです。
家族的な雰囲気はそういったところにも出ますね。






いやいや、特別に席をご用意いただきありがとうございます・・・。

全部ショパール。。。








デザートも凝ってます。帰ったら体重増えてました。





ここからは、本日の写真タイムです。


さて、こちらが、新作のL.U.C ヘリテージ グラン クリュ トノー クロノメーター。昨日ニュースが出て、実機写真もアップしましたね。






薄い。




マイクロローターがやはり真骨頂ですね。ケースのジュネーブシール、ご注目ください。今では、ジュネーブシールはムーブメントだけのものではなくなったのです。




キャリバーは1.97。実際には、97.01-Lとなるでしょう。






これも魅力的な作品です。




1日目は以上ですが、勝手にまとめてしまうと:
- ショパールは、どこの「グループ」にも属さない「独立系」のブランドである。独立時計師という意味ではなく、上場もしておらず、ショイフレ家が持っている会社であり、上場している大手グループのように、第三者株主からパフォーマンスについてとやかく言われることがない。コストを削れとか、無駄な投資をするなとか。
- ということは、ショパールは、好きな(必要な)ことのために、好きな時に、好きなだけお金をかけてすることができる!
- まさに、手を抜く必要もなく、ケチる必要もなく、納得の行く商品を作り、世に出すことができる。
- オーナーシップが「家族」であるために、社員・職人もすべて「家族」として扱っていて、転職率は極めて低い。熟練工が育つ。インターンを受け入れたら、ショパールは普通の会社と違い、他社に行って修行してくることを勧めるそうです。そして、ほとんどの人が数年後に帰ってきて、ショパールを進化させることに貢献する、とのこと。
- 徒弟制度はないが、技術は確実に受け継がれる。セクションに分かれて、それぞれが流れ作業をしているが、それは各自のできることがそれだけ、という意味ではない。誰がその流れ作業の中から抜けても、代わりを務めることができるような技術をそれぞれが持っている。

こんな時計ブランド、他にありますかね? 皆さん、タイトルにも書きましたが、ショパールは超・超一流の機械式時計マニュファクチュールです。手を抜きません。品質は超一流です。女性用アクセサリーブランドだと決めつけていた皆さん、そうじゃないんです。ここは、時計ブランドなんです。ということを再度実感した1日目でした。

では、次回は2日目、フルーリエ工場のレポートをします。お楽しみに!

http://www.chopard.jp/