2017年のドイツ時計を振り返る

 By : KITAMURA(a-ls)
「2017年のドイツ時計を振り返る」というテーマで、おそらく2017年最後となるブログを締めくくりたいと思う。

実はこの記事、バーゼルが終了した直後から構想していたのにもかかわらず、着手すると必ず“出張”とか”急ぎの別企画”とか“緊急打合せ”とか、ともかく書き始められない事態が起こり伸び伸びとなっていたもので、逆に、書こうとすると必ず忙しくなるというトラウマから、ついつい放置、とうとうこの大晦日に書くハメになっているのだが、案の定、朝から微熱があり、不吉な予感を覚えている(笑)。

今年のことは今年のうちにという義務感から書き始めるが、ただ、何度もトライしかけた経緯があるので、どこから書くべきか、どういう切り口で書くべきかなど、何パターンかが頭の中でごっちゃになっており、しかもこの微熱である・・・。よって、乱文失礼ということを予めお断りしておきたい・・・・。

さて、自分の中にあるブログ執筆のモチベーションのひとつは、ドイツ時計の魅力をなるべく多くの方に共有してもらいたいという願望であるため、今年はどのブランドが素晴らしかったとか、どのモデルが一番良いとか、そういう書き方ではなく、あくまでもユーザーとしての視線から各々のインプレッションを記すようにしたい。

その意味で、個人的に今年もっとも印象的だったのは、グラスヒュッテ・オリジナルだ。
理由は、バーゼルのブースで聞かされた、ブランドサイドからの次の一語。

「わたしたちはもはやランゲ&ゾーネのコンペティター(競争者・競合社)ではありません。われわれは、自社の素晴らしいムーブメントを、ランゲ&ゾーネが扱わないステンレス・スティールという素材でケーシングすることで、今後はハイクオリティでリーズナブルな時計を主力としていきます。ですから、今後のわたしたちのコンペティターはむしろ、スイスの中価格帯のブランドとなるでしょう」

これは素晴らしい英断である!!

人件費や開発費の上昇による価格高騰が目立つドイツ時計ブランドではあるが、ドイツ時計の良さを楽しむにあたって、貴金属ケースでなければならない理由はスイス時計よりも低いと思う。時計の機能とムーブメントの美しさを最高のコストパフォーマンで手にできるならば、ステンレス・スティール素材でもOKと、考える層も一定数は必ずいるだろう。

確かに、徹底的にブラッシュアップしたキャリバーであり、グラスヒュッテのクオリティーと美しい仕上げが施されたCal.36をエンジンとする「セネタ・エクセレンス」のラインを厚くし、全モデルにSSケースを常設した今年の新作には、その意思が感じ取れる。(参照: https://watch-media-online.com/blogs/601/ )



惜しむらくは、まだCal.36に相当する手巻きムーブメントがないことだろうか。もしグラスヒュッテ・オリジナルがA.ランゲ&ゾーネのL951クラスの手巻きムーブメンを持てば、かなり面白い拡がりが生まれる気がする。
極端な話、会社の方針でA.ランゲ&ゾーネには絶対に作ることができないスティール・モデルの、たとえばダトグラフ相当のSSモデルを300万円程度で世に出せれば、機械の出来は間違いないので、爆発的な支持を得ることも予想されるわけである。
実際、今年の「セネタ・クロノグラフ・パノラマデイト」のSSモデル(参照: https://watch-media-online.com/news/558/ )が、もしもう少し小振りに仕上がっていて、もし手巻きムーブだったら、ドイツ時計の歴史はちょっと変わったかもしれない。

さらにひと言付け加えるならば、「セネタ・エクセレンス」など最近の作品のデザインの独自性を見る限り、過去、明らかにランゲを意識したデザインだったり、アクアタイマーチックなダイバーズやロイヤルオーキッシュなスポーツモデルの模索など、紆余曲折あったGOのデザインの黒歴史は、もうそろそろ時効扱いにしてしても良いと思う。
今年のグラスヒュッテ・オリジナルは最優秀インプレッション賞としておこう。

ドイツ時計産業の今後にとって、「ステンレス・スティール・ケース」は、良くも悪くも、かなり重要なキーワードになるような気がする。


一方、このグラスヒュッテ・オリジナルの方向性とは対極の路線を選択したのが、今年のモリッツ・グロスマンではないだろうか。
ステンレス・スティール路線と言えば、奇しくも昨年、「アトム・ピュア」で一足先にその領域に踏み込んだのがモリッツ・グロスマンであった。ただ、ユーザーはに伝わりづらいムーブのブラッシュアップを加えたりした一方で、誰もが一見して分かるエングレーヴィングを省くという(実はこれも前世紀の懐中時計の約束事に律儀に倣っているのだが)、その愚直なまでな真面目さに賛否も分かれたことは記憶に新しい。(参照: http://alszanmai.exblog.jp/25561840/ )


そこで今年は、新しい切り口のデイト表示機能を持つ「アトム・デイト」や、新しい巻き上げ機構を持つ「テフヌート・ツイスト」といった、機械・機構面に工夫を凝らしたモデルを出し、(参照: https://watch-media-online.com/news/555/ ) ( https://watch-media-online.com/blogs/693/ )



さらに、名門ドンツェ・カドランとコラボレーションした「アトゥム・エナメル」や、深みのあるカラーダイヤルを持つ「アトゥム・プリマヴェラ」といった文字盤の工芸性を高めた至高のモデルを多数発表した。
(参照: https://watch-media-online.com/blogs/480/ )( https://watch-media-online.com/news/650/  )

機構や仕上げなど、常に最高クラスのクオリティを追求し続けるブランドの性格上、本格路線を選んだ作品について、ユーザーサイドとしては、コストと満足度とのバランスをどう折り合わせるか、なかなかに悩ましいものとなった気がする。しかしその一方でグロスマンの新作には、昨年のSSケースの「アトム・ピュア」に、きちんと仕上げを施したムーブを積んだ“ハイ・アート”という、これが出来たのであれば選択肢のひとつとして去年に提示しておいて欲しかった3モデルが各15本限定で発売されていたり、しかしそれらの情報は限定のためかオフィシャルHPには掲載されていなかったり、また、プレスリリースにはなかった「アトゥム・ピュア・スカル」といった、およそグラスヒュッテっぽくないSS作品があったり、やや統一性を欠いた少しわかりにくい点があるのは残念。
いずれにしろ、全体的に低価格帯の開発に邁進しつつある時計業界の中にあって、グロスマンのこの本格志向は価格にもそれなりに反映されるため、今後の発展性に注目である。
ということで、今年のモリッツ・グロスマンには名誉ある最優秀開発賞を贈りたい。



さて、ステンレス・スティール・高品質・低価格路線で、一日の長があるブランドといえば、それはノモス・グラスヒュッテである。
ノモスの場合、当初からSSケース&汎用ムーヴという低価格路線をその特徴としてきたわけだが、そうした実績を積み重ね、いよいよ投入された18Kのゴールドケースと自社ムーヴを採用した本当にグラスヒュッテらしい出来の良いハイエン・ピースの「Lambda」が、「サクソニア」や「セネタ」などの貴金属ラインのユーザーを、どのように侵食していくかというところに、2013年以来、非常に期待してきた。しかしグラスヒュッテ・オリジナルが主戦場をSSに移しつつあるような現状にあって、発表以来ずっと続けてきた「Lambda」 (参照: http://alszanmai.exblog.jp/21401870/ ) の新展開が途切れたことは、少し残念なところである。

しかしその分、2015年に発表された超薄型ムーブメントの「DUW3001」を活かしたカラフルな「アクア シリーズ」や、手巻きαを搭載した非常にリーズナブルな「キャンパス・シリーズ」がラインナップに加わった。

特に17万円台からセレクト可能な「キャンパスシリーズ」は、グラスヒュッテ・ウォッチへの入門ピースとして、もしくはダニエル・ウェリントン辺りから時計に目覚めたユーザーには次なるステップとして(笑)、こぞって着用して欲しいモデルだ。
ノモス・グラスヒュッテには今年の優秀コストパフォーマンス賞を贈呈したい。



そして、満を持して登場のA.ランゲ&ゾーネの今年はと言えば、最初から言ってしまうが、優秀安定賞というところだろうか。時計それぞれは素晴らしい。しかし、「トゥールボグラフ・パーペチュアル」にしろ、「ツァイトヴェルク・デシマル・ストライク」にしろ、時計の名前を聞いた段階でほぼその機能と顔までも見当がついてしまう。


しつこく言うが、もちろん時計それぞれは素晴らしい。


でもしかしである、昔「ツァイトヴェルク」という名前をはじめて聞いたとき「どういう仕組みになってるんだぁ」とあれこれ想像したことや、「ランゲ31」と聞いて「マジかよ!」と叫んだあの日や、「テラルーナ」にあんぐり口を開けたあの時の、未知の扉をのぞき込むようなワクワクドキドキ感が今年の新作にはあまり感じられなかったのである。くどいかもしれないが時計それぞれは実に素晴らしい。ただ今年の素晴らしさは実に安定していたというか、良くも悪くも、過去に発表した機構のヴァリエーションや組み合わせだった点が・・・・


げ、ここで年が明けてしまったぁ~!


時間切れの「あけおめ」だからと言って、この記事の書き出しを書き直すだけの気力はない。熱も下がらないし、とりあえず2年越しで書き続ける。


という訳でA.ランゲ&ゾーネである。
2017年はウォルター翁の喪中ということで、あまり派手なプロモーションもなかったが、2016年の限定ピースである「リヒャルト・ランゲ・ジャンピングセコンド」を、今年、2017年の秋にあっけなくPGケースで再発するなど、真っ先に買ったユーザーを大事にしないシンドロームをまたまた発症したのはシビアに減点だ。改めて言うけど、時計それぞれは実に素晴らしいのだから、もう少しファンに寄り添って欲しい・・・。
あとひとつ気になったのは、ウォルター・ランゲ・オマージュのスペシャル限定にステンレス・スティール・ケースを選んだことだ。ウォルター翁とSSケースには特に関連性はないし、普通に考えれば、プラチナもしくはハニーカラーゴールドが登場するはずのシーンでのステンレス・スティールの採用である。まさかこれを踏み絵に・・・・ランゲも!?

先にも書いたが、「ステンレススティール・ケース」は、良くも悪くも、今後のドイツ時計シーンにおいて、かなり重要なキーワードになるような気がする。ま、信じるか信じないかはアナタ次第だけどね!


最後は、ドレスデンからのラング&ハイネ
今年秋から始まったノーブルスタイリングさんの取り扱い開始によって、確実に販路&裾野が広がるであろうラング&ハイネ。(参照: https://watch-media-online.com/blogs/923/  )
もしかしたら、最も伝統的ドイツ時計の形態に近い時計作りを行っている独立系工房ではないだろうか。
SSケースから貴金属ケースまで、融通の効くバリエーションを備え、個人的なカスタマイズの相談にも乗ってくれるという、この規模の利点を活かした職人技が堪能できる。

今年の新作は角型時計の「ゲオルグ」。

●ドイツの角にしてドイツの格


恵比寿での華々しい発表会も印象的だったので、まさにブライテストホープ賞をさしあげておく。
(参照: https://watch-media-online.com/blogs/969/  )
日本市場で本当にその真価が問われるのは今年のバーゼル以降となるだろうが、マルコ氏のキャラクターも良く、いまのとこは好感触、大いに期待したいところである。




さて、2017年ありがとうの締めくくり記事のハズが、期せずして、明けましておめでとうございます記事となってしまうという不手際の中ですが、WATCH MEDIA ONLINEは今年もユーザーとしての立ち位置から時計と取り組んで参ります。



2018年も、なにとぞ宜しくお願い致します。




そして、この一年の皆さまの素晴らしい時計ライフを祈念しつつ、
本日はこの辺で。乱文失礼いたしました。