クレヨン エブリウェア ユニバーサル・サンライズ・サンセットムーブメント 疑似組み立て体験
By : CC Fan発表自体は去年ですが、個人的に今年最も注目したといっても過言ではないクレヨン(Krayon)のエブリウェア(Everywhere)、最も信頼度の高い「年間ベスト時計賞」とされるGPHG2018で、革新的な時計に贈られるイノベーションプライズを獲得したことも記憶に新しいです。
"念ずれば通ず"ではないですが、知りたいの一念でコンタクトを取ったらいきなり創業者のレミ・マイヤ(Rémi Maillat)氏と直接連絡させていただけるようになり、インタビューやジャパンプレビューイベントという形で素晴らしさを紹介させていただけました、さらに、10月に行ったスイス取材紀行では自宅兼オフィスを訪問させていただき、マイヤ氏から直接機構の説明を受けることができました。
作り手との距離が近い独立系の魅力だと思います。
クレヨンのエブリウェアについては今までも何度も記事を掲載してきましたので、そちらもどうぞ。
今回の記事は来年の打ち合わせの一環でマイヨ氏から頂けたサプライズです。
きわめて複雑なユニバーサル・サンライズ・サンセットですが、内包する複雑性とは裏腹に、機能は"緯度・経度・日付(月と日)・時差をセットすると日の出と日の入りの時間を表示する"というシンプルなもの、そのコントラストも魅力の一つだと考えています。
当然機構を知りたい!という思いから、わかり辛いムーブメント解説を書いたりしました。
オフィス訪問時にマイヨ氏と話して理解した考え方は間違っていないという実感は得られましたが、記事がわかり辛かったのも事実、理解があいまいだった緯度とカレンダー周りの"数学的抽象化"を含めた解説を書きたいな…と思っていたら、マイヨ氏が新規にCAD図を提供してくれました!
驚くべきは画像のほかにフランス語で各部品の機能を説明した組み立て図のPDFまで添付してくれたこと、基幹技術は特許で保護されていることを差し引いても、オープンさはなかなかのものです。
隠すようなことはない・難解な理論がわかっただけでは真似はできないという確固たる自信を感じます。
分解図の全容。
前回の記事ではこれをベースに機能を追記していきましたが、一枚にまとまりすぎてわかり辛かったのも事実。
今回の新規CAD図は地板からスタートし、部品を順番に組み入れていく疑似組み立て体験ともいうべき構成。
わかり易さでは一番ではないでしょうか。
それでは見ていきましょう。
ユニークな構造の地板、まずは文字盤側からスタート、巻き芯周辺のパーツを組み込みます。
バネの形状からも伺えるリュウズのポジションは3つ、巻き上げ・時合わせ・パラメーターセッティングの3つです。
すべてのパラメーターは両方向に設定可能、バックラッシュ(歯車の遊び)の関係で"最後はこちらの方向に回してほしい”という方向はあるそうですが、あまり気にしなくてよいようです。
裏返して、機械式計算機の部品のうち、日付歯車周辺を組み込みます。
真鍮色の歯車が日付歯車、そこから読み取る中間車とブリッジを固定します。
計時機構を組み込みます。
大きめの香箱に噛み合う2番車が中央に、加速していく3・4番車が見えます。
香箱の右に見えるのは手巻きを行う巻き上げ車の内の1つ。
自動巻き機構と計時輪列のブリッジを組み立てます。
ローターに取り付けられた偏心軸が直接レバーを動かし、爪が歯車をひっかけて巻き上げるラチェット巻き上げ機構、マイヨ氏いわく、"Japanese Technology"ことセイコーのマジックレバーと同じです。
縦横の軸石に取り付けられた角穴車と直接噛み合って巻き上げを行い、香箱の逆転を防ぐコハゼもこちらに取り付けられています。
右側に見えるのは手巻き機構、ラチェット巻き上げはレバーがクラッチの役割をするため、手巻きしても自動巻きのローターにまで力は伝わらないという考え方のようです。
自動巻き機構と計時輪列のブリッジを合体。
固定ネジは3か所、ブリッジを分割しない4分の3プレート的なアプローチともいえます。
テンワと脱進機周りのパーツを組み込みます。
全体としてはオーソドックスな作りですが、天真の真上をマイクロローターが通過するぎりぎりの設計です。
ガンギ車のブリッジも薄く作られています。
ここまででいわば通常の3針自動巻きムーブメントに相当する部分が完成しました。
パラメーターセレクターを組み込みます。
大きなレバーによってラチェットが送られると、連結されたカムが水平クラッチをコントロールし、巻き芯からの連結のON/OFFを行います。
この機構により、リュウズのみでコントロールできる範囲を広げ、同時に操作できるパラメータを1つに絞ることで組み合わせによる誤動作の可能性を排除しています。
ひっくり返して文字盤側。
センターの分針と時針に相当するディスクを駆動する輪列を組み込みます。
時合わせの輪列と、サファイアクリスタルのディスクを基準位置に組み込みます。
ディスクは3か所の支持材で支えられ、日の出・日の入りディスクのほうが下になるためいったん外します。
経度とUTCからの時差を計算する差動歯車機構のブリッジを組み込みます。
経度によるUTC基準での日の出・日の入りの修正(1時間/15°)とUTCからの時差による現地時刻への変換を行い、緯度とカレンダーから求めた経度0°での日の出・日の入り時刻に足し合わせを行います。
経度・UTCからの時差を緯度・カレンダーに伝えるための伝達歯車を組み込みます。
日の出・日の入りディスクを駆動する部分です。
一番下の歯車が日の出・日の入りディスクを回転させる歯車、その上に経度・UTCからの時差の補正値を足し合わせるための差動歯車機構と日付と経度を計算する機構の一部のレバーが見えます。
このレバーがカレンダーと経度で制御されたレバーに押されることで非線形に日の出・日の入り時間を読み出し差動歯車の片方を駆動します、そしてそして経度・UTCからの補正値をもう片方に入力し、結果として日の出日の入りディスクを駆動します。
レバーによる駆動の様子。
レバー先端の歯は大きな歯車の一部を切り出したもの、カレンダー機構の直線的な動きをレバーが回転運動に変換しているのがわかると思います。
より純粋に角度のみ取り出したもの。
最難関、カレンダーと緯度計算の部分。
一年で一周するカレンダー歯車の直線的な溝がカムの4つのピンに噛み合い、カムを直線動作させます、緯度はカレンダー歯車とカムの角度の差という形で与えられ、一番上にある差動歯車で緯度に相当する角度をカレンダーの角度に足し合わせます。
逆サイドから見た組み立て図。
差動歯車によってカムとカレンダー歯車の角度を変更できるようにしているのがわかります。
緯度0°を基準に角度をつけることによって緯度の差を表しているようです。
いまだ完全ではないですが、定性的には理解できた気がします。
すでに掲載した動画ですが、経度調整のアニメーションに緯度周りもわかりやすく写りこんでいたので再掲します。
インジケーターから中間者を経由してカムとレバー部分に緯度が入力されるのがわかるかと思います。
最後に歯車計算機全体を固定するブリッジを取り付けて完成。
ここには書かれていませんが、自動巻きのマイクロローターも最後に取り付けます。
設計としてきれいに分離されており、各セクションをそれぞれ組み上げては個別テストし、次に進めるような構造になっています。
コンプリケーションとしてはカレンダーの進化系であり、計時輪列はシンプルな自動巻きムーブメントそのものであるということもわかります。
冒頭に掲載した分解図を面ごとにしたものを。
重なり合う歯車の複雑性を感じられる断面図。
以前のレポートで掲載した分解動画も再掲します。
日本での知名度はまだまだと感じるクレヨン、まずは少しでも多くのコレクターの方にこの驚くべき複雑性を知っていただきたいです。
少しでも理解の手助けになれば幸いです。
関連 Web Site
Krayon, mécanismes horlogers suisses(英語サイト)
https://www.krayon.ch/en/accueil
参考資料 国立天文台 暦計算室
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
参考資料 海上保安庁 海洋情報部 日月出没計算サービス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/automail/sun_form3.html
Noble Styling
http://noblestyling.com/
"念ずれば通ず"ではないですが、知りたいの一念でコンタクトを取ったらいきなり創業者のレミ・マイヤ(Rémi Maillat)氏と直接連絡させていただけるようになり、インタビューやジャパンプレビューイベントという形で素晴らしさを紹介させていただけました、さらに、10月に行ったスイス取材紀行では自宅兼オフィスを訪問させていただき、マイヤ氏から直接機構の説明を受けることができました。
作り手との距離が近い独立系の魅力だと思います。
クレヨンのエブリウェアについては今までも何度も記事を掲載してきましたので、そちらもどうぞ。
- 基礎・外装編
- ムーブメント編
- 操作動画・その他編
- 創業者レミ・マイヤ氏インタビューと実機レポート
- ムーブメント詳細編
- ジャパンプレビューイベント
- エブリウェア・ホライゾン登場
- プレスキット
- GHPG2018 男性用コンプリケーション部門のプリセレクトウォッチに
- GPHG2018 クレヨン エブリウェア ホライゾンがイノベーション プライズを受賞!
今回の記事は来年の打ち合わせの一環でマイヨ氏から頂けたサプライズです。
きわめて複雑なユニバーサル・サンライズ・サンセットですが、内包する複雑性とは裏腹に、機能は"緯度・経度・日付(月と日)・時差をセットすると日の出と日の入りの時間を表示する"というシンプルなもの、そのコントラストも魅力の一つだと考えています。
当然機構を知りたい!という思いから、わかり辛いムーブメント解説を書いたりしました。
オフィス訪問時にマイヨ氏と話して理解した考え方は間違っていないという実感は得られましたが、記事がわかり辛かったのも事実、理解があいまいだった緯度とカレンダー周りの"数学的抽象化"を含めた解説を書きたいな…と思っていたら、マイヨ氏が新規にCAD図を提供してくれました!
驚くべきは画像のほかにフランス語で各部品の機能を説明した組み立て図のPDFまで添付してくれたこと、基幹技術は特許で保護されていることを差し引いても、オープンさはなかなかのものです。
隠すようなことはない・難解な理論がわかっただけでは真似はできないという確固たる自信を感じます。
分解図の全容。
前回の記事ではこれをベースに機能を追記していきましたが、一枚にまとまりすぎてわかり辛かったのも事実。
今回の新規CAD図は地板からスタートし、部品を順番に組み入れていく疑似組み立て体験ともいうべき構成。
わかり易さでは一番ではないでしょうか。
それでは見ていきましょう。
ユニークな構造の地板、まずは文字盤側からスタート、巻き芯周辺のパーツを組み込みます。
バネの形状からも伺えるリュウズのポジションは3つ、巻き上げ・時合わせ・パラメーターセッティングの3つです。
すべてのパラメーターは両方向に設定可能、バックラッシュ(歯車の遊び)の関係で"最後はこちらの方向に回してほしい”という方向はあるそうですが、あまり気にしなくてよいようです。
裏返して、機械式計算機の部品のうち、日付歯車周辺を組み込みます。
真鍮色の歯車が日付歯車、そこから読み取る中間車とブリッジを固定します。
計時機構を組み込みます。
大きめの香箱に噛み合う2番車が中央に、加速していく3・4番車が見えます。
香箱の右に見えるのは手巻きを行う巻き上げ車の内の1つ。
自動巻き機構と計時輪列のブリッジを組み立てます。
ローターに取り付けられた偏心軸が直接レバーを動かし、爪が歯車をひっかけて巻き上げるラチェット巻き上げ機構、マイヨ氏いわく、"Japanese Technology"ことセイコーのマジックレバーと同じです。
縦横の軸石に取り付けられた角穴車と直接噛み合って巻き上げを行い、香箱の逆転を防ぐコハゼもこちらに取り付けられています。
右側に見えるのは手巻き機構、ラチェット巻き上げはレバーがクラッチの役割をするため、手巻きしても自動巻きのローターにまで力は伝わらないという考え方のようです。
自動巻き機構と計時輪列のブリッジを合体。
固定ネジは3か所、ブリッジを分割しない4分の3プレート的なアプローチともいえます。
テンワと脱進機周りのパーツを組み込みます。
全体としてはオーソドックスな作りですが、天真の真上をマイクロローターが通過するぎりぎりの設計です。
ガンギ車のブリッジも薄く作られています。
ここまででいわば通常の3針自動巻きムーブメントに相当する部分が完成しました。
パラメーターセレクターを組み込みます。
大きなレバーによってラチェットが送られると、連結されたカムが水平クラッチをコントロールし、巻き芯からの連結のON/OFFを行います。
この機構により、リュウズのみでコントロールできる範囲を広げ、同時に操作できるパラメータを1つに絞ることで組み合わせによる誤動作の可能性を排除しています。
ひっくり返して文字盤側。
センターの分針と時針に相当するディスクを駆動する輪列を組み込みます。
時合わせの輪列と、サファイアクリスタルのディスクを基準位置に組み込みます。
ディスクは3か所の支持材で支えられ、日の出・日の入りディスクのほうが下になるためいったん外します。
経度とUTCからの時差を計算する差動歯車機構のブリッジを組み込みます。
経度によるUTC基準での日の出・日の入りの修正(1時間/15°)とUTCからの時差による現地時刻への変換を行い、緯度とカレンダーから求めた経度0°での日の出・日の入り時刻に足し合わせを行います。
経度・UTCからの時差を緯度・カレンダーに伝えるための伝達歯車を組み込みます。
日の出・日の入りディスクを駆動する部分です。
一番下の歯車が日の出・日の入りディスクを回転させる歯車、その上に経度・UTCからの時差の補正値を足し合わせるための差動歯車機構と日付と経度を計算する機構の一部のレバーが見えます。
このレバーがカレンダーと経度で制御されたレバーに押されることで非線形に日の出・日の入り時間を読み出し差動歯車の片方を駆動します、そしてそして経度・UTCからの補正値をもう片方に入力し、結果として日の出日の入りディスクを駆動します。
レバーによる駆動の様子。
レバー先端の歯は大きな歯車の一部を切り出したもの、カレンダー機構の直線的な動きをレバーが回転運動に変換しているのがわかると思います。
より純粋に角度のみ取り出したもの。
最難関、カレンダーと緯度計算の部分。
一年で一周するカレンダー歯車の直線的な溝がカムの4つのピンに噛み合い、カムを直線動作させます、緯度はカレンダー歯車とカムの角度の差という形で与えられ、一番上にある差動歯車で緯度に相当する角度をカレンダーの角度に足し合わせます。
逆サイドから見た組み立て図。
差動歯車によってカムとカレンダー歯車の角度を変更できるようにしているのがわかります。
緯度0°を基準に角度をつけることによって緯度の差を表しているようです。
いまだ完全ではないですが、定性的には理解できた気がします。
すでに掲載した動画ですが、経度調整のアニメーションに緯度周りもわかりやすく写りこんでいたので再掲します。
インジケーターから中間者を経由してカムとレバー部分に緯度が入力されるのがわかるかと思います。
最後に歯車計算機全体を固定するブリッジを取り付けて完成。
ここには書かれていませんが、自動巻きのマイクロローターも最後に取り付けます。
設計としてきれいに分離されており、各セクションをそれぞれ組み上げては個別テストし、次に進めるような構造になっています。
コンプリケーションとしてはカレンダーの進化系であり、計時輪列はシンプルな自動巻きムーブメントそのものであるということもわかります。
冒頭に掲載した分解図を面ごとにしたものを。
重なり合う歯車の複雑性を感じられる断面図。
以前のレポートで掲載した分解動画も再掲します。
日本での知名度はまだまだと感じるクレヨン、まずは少しでも多くのコレクターの方にこの驚くべき複雑性を知っていただきたいです。
少しでも理解の手助けになれば幸いです。
関連 Web Site
Krayon, mécanismes horlogers suisses(英語サイト)
https://www.krayon.ch/en/accueil
参考資料 国立天文台 暦計算室
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
参考資料 海上保安庁 海洋情報部 日月出没計算サービス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/automail/sun_form3.html
Noble Styling
http://noblestyling.com/
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