クレヨン ジャパン・プレビューイベント

 By : CC Fan
集中的にレポートを掲載している、クレヨン(Krayon)のエブリウェア(Everywhere)、位置情報(緯度・経度)とカレンダー(月・日付)から機械式計算機によって日の出と日の入りの時刻を計算し、24時間表示の時針に重ね合わせて表示するという信じがたい複雑性を持ったスーパーコンプリケーションです。
一区切りとなる今回は、ノーブルスタイリングギャラリーで行われたジャパンプレビューの様子といくつかの追加情報、そして"いつもの"余談となっているカジュアルディナーの様子をお伝えいたします。

過去のレポートは下記をご覧ください。
ムーブメント詳細編は、ノーブルスタイリング山口さんをもって"難解"という評価をいただきました。

まずはイベントから、そうそうたるプレスの方々に加え、WMOを見てお越しいただいたという読者の方もいらっしゃり、非常にありがたいです。

まずは創業者レミ・マイヤ氏のプレゼンテーションからスタート。



これは今までの記事でもすでに伺っているので、内容はそちらをご覧ください。

その後、質疑応答があり、個人的に最も尊敬し見習いたいと思っているジャーナリスト氏より、いきなり"価格は?"という質問が…
今までの記事では触れてきませんでしたが、現状はドル建てで60万ドル(からユニークピース仕様によって変動)です。
個人的には逆立ちしても買えない値段なので、買えない私が何を言っても微妙なのですが、ユニークなコンプリケーションの値段として日本ではどう判断されるでしょうか…

同じくジャーナリスト氏からスーパーコンプリケーションなのに永久カレンダーではないのか?という質問もありました。
マイヤ氏によると追加することもできるがこのサイズに収めることは不可能になり装着感が悪化していまうこと、ユニーバーサル・サンライズ・サンセット機構以外は極力シンプルな構成にして主目的にフォーカスするためにシンプルカレンダーにしたとのことで、この考え方は個人的には納得感があります(永久カレンダーがあまり好きではないというのもありますが)。
"設計しなおせば"永久カレンダーにすることもできるだろうし、同様に針の位置を変えることができないかというリクエストもあるので、どうしてもという場合は要相談とのことでした。
ちなみに、マイヤ氏は所属していた大手メゾンにて永久カレンダーを最初から設計していた経験もあります。

プレゼンテーションの後はお待ちかねの実機をご覧下さいという時間ですが…



このような展示用什器が作られてはいましたが、ほとんど使われず…



トレイに置いた状態でケースの上に置かれており、誰でも実機を実際に触ってOK!

これは、触らなければわからないというノーブルスタイリング葛西さんのスタンスとマイヤ氏の自身が設計した機構に対する自信の表れと解釈しました。



と言うわけで、インタビューの際にタイミングを逃してしまったリストショットを。
ダイヤベゼルで直径43mmと数字上は大きいですが、収まりは非常に良いです。
ノーマルベゼルなら直径42mmなので、さらに収まりが良いでしょう。



装着感が良好な理由の一つは、ケースがすぼまった形になっており肌に当たるケースバック側が直径40mmしかないためとのことです。
改めて見直してみると、数字上は直径45mmもある我がカンタロスも同じ方法をとっており、こちらはケースがすぼまっているうえにサファイアバックとケースに微妙に段差をつけることで肌に当たるのはサファイア部分のみ、直径40mm以下にしています。
これがすぼまっていないシリンダーケースだとより大きく感じるでしょう。
こういう気が付きにくいノウハウの積み重ねが装着感の大きな差になるのでしょうか。



コンプリケーションなのに薄いというのは、大手メゾン時代から使いやすさを重視するマイヤ氏のこだわりとのこと。
コレクションケースの中に納まって眺めるだけのコンプリケーションではなく、日常使いしてほしいという考えは非常に共感します。



腕につけた状態で少し気になった点としては、サファイアディスク表面に角度によっては派手に光源の映り込みが発生すること。
サファイア風防と同じなので、気が付くと当たり前なのですが…
特に、針以外がほとんど透明な時針ディスクが反射しているように見えます。

ただ、少し角度を変えれば消えるので使っているうちに無意識に対処できそうです。



ムーブメントについてもいくつかの発見。
テンプのの緩衝装置がマイクロローターが通過する位置にあり、避けるように段差が設けられています。
このような設計はあまり見たことがありません。
また、マイクロローターのクリアランスはかなりギリギリで"攻めて"います。



ただ、マイクロローターが取り付けられたブリッジとその他のブリッジではギリギリの度合いが違い、おそらく公差が考慮されて位置が決まっているものと思われます。



ピンバックルにも特徴的なKRAYONロゴのY部分が。

特徴的な"クレヨン"という名前は時計ブランドというより、氏が率いるデザインスタジオ全体の名前で、筆記具から名前をとっていますが、日本で言うクレヨン(軟質クレヨン)ではなく、ヨーロッパでの鉛筆のことだそうです。
これは、"どんな複雑なアイディアもまずは人間の思考と鉛筆でのラフスケッチから始まる、理論を実現するために描き出す鉛筆のような存在でありたい(意訳)"という意味を込めているそうです。
素朴でありながら印象に残る良い名前だと思っていましたが、由来を聞くと更に良い名前だと思います。
また、時計自体にアイデンティティとしての名前を付けているのも個人的には好みです。

ムーブメントはさんざん書きましたが、ひとつ追加情報を。



緑色と紫色が重なった歯車にバネのようなものがついているのがわかりますでしょうか?
これはバックラッシ(歯車の遊び)をなくすために、2枚の同軸歯車に対し、バネで歯を挟むようにトルクをかける(予圧を与える)、ノンバックラッシギアと呼ばれる機構です。
エンジンなどで使われているのは知っていましたが、時計でも使っているとは知りませんでした。

最後にムーブメント全景をもう一度。



素晴らしいの一言です。

いきなりの大作を発表したクレヨンですが、これに比肩する"次"はあるのかというのが気になります。
曰く、現在は"2つのアイディア"があり、片方は"1500部品"というにわかには信じがたい複雑性を持った新しいコンプリケーションだそうです。
"普通の"トゥールビヨンや三針、またはコンプリケーションを作るつもりは?という質問に対しても、"当分先"と心強いお言葉、是非これからもまだ見ぬ独自の複雑機構を追求していただきたいです。
次はヌーシャテルで会おう!となりました、ストレーラ氏の一言でバーゼル行きが決まったように、勢いが大切ですし、時計の引き取りもあるので、夏に行けるように検討します。

さて、イベントは大盛況に終わりました。
例によってここから先は完全な余談です。



イベントの反響に上機嫌の葛西氏(いろいろ物議を醸しだした帽子は山口氏の私物)。
こう見るとネタ元に似てる気もします…



というわけでYAKITORI Partyです。



これは別の日のRaw Fish Party。
個人的にはこういうカジュアルさは大好きです。



酔ってテンションが上がる葛西氏と、冷静に遠くを見つめる山口氏。
よく見る光景です。



お土産にマイヤ氏がスイスより持参されたチョコレートをいただきました。
どこかで聞いたと思ったら、グルーベル フォルセイのチョコレートを作っているヌーシャテルのJacot Chocolatierです。



新橋のゆりかもめ駅までマイヤ氏をお送りし、再会を約束してお見送りを…



次はヌーシャテルで!

関連 Web Site
Krayon, mécanismes horlogers suisses(英語サイト)
https://www.krayon.ch/en/accueil

参考資料 国立天文台 暦計算室
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/

参考資料 海上保安庁 海洋情報部 日月出没計算サービス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/automail/sun_form3.html

Noble Styling
http://noblestyling.com/