Christophe Claret Dualtow

 By : CC Fan
2016年もあと僅かです。
年末の大掃除として、書きかけだった記事を一旦まとめて公開してしまおうと思います。
まずは、クラーレのピース紹介です。

X‐TREM-1
と同じ、エクストリームウォッチラインからブランドの初作デュアルトゥ(Dualtow)を紹介したいと思います。
これは方式などはまるで違いますがストライキング・クロノグラフ機構を備え、ある意味カンタロスの"ご先祖様"ともいえるモデルです。
すでに完売なのか、Web Siteからも紹介がなくなってしまいました。

例によってプロモーションムービーがあるので、まずはこちらをご覧ください。


Dualtowプロモーション動画 (YouTubeのクリストフ・クラーレ公式チャネルより動画埋め込み)

オリジナルはBGMに映画MATRIXの"Clubbed to Death"を使ったバージョンでしたが、ここ数年の間に新しいBGMに差し替えられています(契約の問題?)。
差し替え前も各種媒体がアップロードしたものがYouTubeには残っていますので、リンクはしませんがご興味があれば検索してみてください。

デュアルトゥはManufacture Claret 創業20周年として2009年に発売された記念ピースです。
この時はまだ現在のように自社銘で売ることはあまり考えておらず、あくまで"20周年記念ピース"という扱いでした。
そのため、ロゴやゴシック体のブランドネームはまだ策定されておらず、使われていません。
このピースの前にも一点製作のトゥールビヨンなど"ART Piece"と呼ばれるシリーズを愛好家向けに販売していましたが、大々的に売り出したのはこれが最初になります。

デュアルトゥを最も特徴づけていたのは、ユーザーがWeb Siteを通じて独自仕様を設定できる仕組みです。
ケースのみならず、受け、地板、針、ベルト、リューズ、プッシュボタン、ストラップなどの大部分の部品の仕様を専用のサイト(現在は閉鎖)で設定し自分好みの仕様を作ることができました。
全体としての限定数は68個ですが、それぞれのピースはユニークピース扱いでした。
これはクラーレと投資家ティエリー・ウルヴェイがタッグを組んで始めたJean Dunand(ジャン・デュナン)というブランドで、"ピース・ユニーク"をコンセプトにして"1仕様は1つしか作らない"ポリシーを掲げていたのを引き継いだのではないかと推測しています。


Dualtow RGケース ブルースティールブリッジ

これはクラーレ社に残っていた(販売可どうかは未確認)最後のDualtowです。
このころから開けるのに専用の工具を必要とするクラーレネジや、サファイヤクリスタルのブリッジ(クロノグラフ輪列部分)などを使っていたことが分かります。

ムーブメントは専用開発のCC20A(Christophe Claret 20th Aniversary?)です。
当時の雑誌などでクラーレが"他社に売るつもりだったが話が無くなったので自社で売ることにした"というような旨の発言をしており、色々な経緯があったようです。

トゥールビヨンは"当然"搭載されていますが、それに加え特徴的な2機能、ベルトによる時間表示と遊星歯車機構を使ったクロノグラフシステムを搭載しています。

まず、ベルトによる時間表示機能です。
これは、クラーレが購入したお城を整えるために自ら運転したパワーショベルの無限軌道(キャタピラ)からインスピレーションを得て作られたそうです。
X-TREM‐1と同様に1時間・5分刻みの表示です。
シリンダーはブガッティT35の車輪からインスピレーションを得たデザインで、片方にコニカルギアが装着され回転軸を90度回転させています。


ケースサイドの窓から見えるベルト駆動システム

そして遊星歯車機構によるクロノグラフシステムです。
これは遊星歯車を使った差動歯車機構(ディファレンシャル・ギア)を使い、クラッチレスとしたクロノグラフ機構です。

遊星歯車機構によるクロノグラフ機構 (Dualtowプレスリリースより引用)

力の伝達順にみていきます。
入力歯車(1)はムーブメントに直接つながっており、継続的に動力を受け取ります。
衛星車受け(2)は遊星歯車の遊星キャリアに相当し、入力歯車(1)・出力歯車(4)に噛み合った衛星(遊星)歯車(3)を支えています。
出力歯車(4)は遊星歯車のアウターギアに相当するものですが、高さを変えることで外歯の歯車としています。
ハートカム(5)・針(6)は出力歯車と同じ軸に取り付けられています。
この図では書いてありませんが、ハートカムの下にブレーキ用のストップディスクも装着されています。
これらを後述する制御レバー3本で停止・解放することでクロノグラフの動作を制御します。

状態を書き出すと下記のようになります。

クロノグラフ状態 衛星車受け ハートカム ストップディスク 力の伝達
リセット 解放 停止 解放 入力→遊星の公転(空転)
スタート 停止 解放 解放 入力→遊星の自転→出力→針
ストップ 解放 解放 停止 入力→遊星の公転(空転)
ストップ→リセット 解放 駆動 解放 ハートカムと入力両方からの力が加わるが、自転と公転の2自由度により伝わらない

リセット時のブレーキを兼ねたハートカムが停止されている場合、出力歯車も回転できないため、入力された力は遊星が公転する方向に使われます(正確には自転もしているが説明のため省略)。

ハートカムを開放し、遊星車受けを停止させると逆に公転できなくなり、自転のみになります。
その状態で出力歯車は解放されているため、出力歯車に力が伝わり、針が動くようになり、スタート状態になります。

再び衛星受けを開放し、ストップディスクを停止させると針はその場で停止し、力は空転方向に伝わるようになります。
これがストップ状態です。

最期にすべてを開放した状態からハートカムをハンマーで叩くと、カムの形状に従って針位置が0に戻されます。
この時はハートカム側からも力が伝わりますが、遊星歯車の自由度(でいいのかわかりませんが)2であり、力は自転と公転の両方でつじつまが合うためムーブメント側には伝わりません。

このように遊星歯車による差動機構を使い片方を停止させることでもう片方に力を伝えるという方法でクラッチレス(これ自体が一種のクラッチなのでそう言っていいのかは微妙ですが)とした機構になります。

通常のクロノグラフではクラッチは秒の1箇所ですが、Dualtowでは時・分・秒それぞれに同一機構のクロノグラフ機構が備えられ、9本(3本×3箇所)のレバーとコラムホイールで制御するという大がかりなものになっています。


遊星歯車機構によるクロノグラフ機構全体 (Dualtowプレスリリースより引用)

1-6は前出の図と同じです。
全体を制御するコラムホイール(7)、リセットを司るリセットハンマー(8)、スタート時に衛星車受けを停止させるスタートブレーキ(9)、ストップ時に針を停止させるストップブレーキ(10)が秒(6時方向)、分(3時方向)、時(9時方向)をそれぞれ制御します。

クロノグラフ機構全体の意匠はバラの花や暗黒星雲(Dark Nebula)といったパワーを感じさせる広がりをイメージしているそうです。


Dualtow RGケース ブルースティールブリッジ ムーブメント側

ムーブメント側からはコラムホイールを送るためのレバーとその力を使ってゴングを鳴らす機構が見えます。
カンタロスはゴングが文字盤側、クロノグラフ輪列がムーブメント側なのでちょうど逆になります。
ツインバレルのムーブメントとクラーレの時計によくみられる"直読式"(ゼンマイの様子を直接見る)のパワーリザーブインジケーターも備えられています。

ソヌリの音はボクシングベルを彷彿とさせるカンタロスとはまた違い、高い澄んだ音でした。

クラーレ自体は水平クラッチのクロノも供給用に作ったことはありますし、カンタロスのような垂直クラッチも作ることができます。
あえてこのような機構を作ったのは、"他社と同じことをやっていては意味がない"というクラーレの気質によるのではないかと思います。

手に入れることは到底かないませんが、見られただけでも幸せでした。
最期にDualtowの検査の様子も登場しているクラーレ社のプロモーションムービーを掲載します。


Christophe Claret - L'Horloger du Soleil d'Or - English (YouTubeのクリストフ・クラーレ公式チャネルより)

2013年公開ですが、今見てカンタロスっぽいムーブメントを作っている様子に気が付きました。

関連 Web Site (メーカー・代理店)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/