MB&F 既存作(HM5・LMP)と個人的な思い出

 By : CC Fan
MB&F(Maximilian Büsser and Friends)はハリー・ウィンストン(Harry Winston)で独立時計師とコラボレーションしたOPUSシリーズのディレクターを務めていたマキシミリアン・ブッサー氏が独立して設立したブランドで、コラボレーションした"フレンズ"と呼んでいる才能ある職人・工房との共同作業で作品を作り出しています。
日本での知名度は殆ど無いようですが、世界的に見ると独立メゾンの中では注目度が高いようです。

SIHHの新作は既にお伝えしましたが、今回はある人物との思い出と既存作について書きたいと思います。

MB&Fはブランドとしても注目していますが、個人的に思い出深い人物が在籍しています。
彼は以前はクリストフ・クラーレ(CHRISTOPHE CLARET)のマーケティング・ディレクターを務めており、2014年のノーブルスタイリング ”PALACE" イベントで初めてお会いしました。
その席で私が出したWGの文字盤をオールチタンケースに搭載してほしいという荒唐無稽なリクエストを彼が承諾したことが、全ての始まりでした。
このリクエストは代理店のノーブルスタイリングさんにしても"無理だろう"と思っていたらしいですが、本国(=クリストフ・クラーレ本人)も承諾、多少のエクストラフィーは必要なものの、製作は可能と言う事になりました。
その後、"ユニークピース"こそ無理でしたが、シリアル番号を少し特別な記法にすると言う事も承諾していただき、カンタロスは私の手元に届きました。
しかし、カンタロスが届いて数か月後、彼が辞めてしまったとノーブルスタイリングさん経由で聞き、”私の注文のせいでクラーレの怒りを買ったのでは…"と心配になりました。
その後、彼は某ブランドを経由してMB&Fに移籍、今回のSIHHで再会し、私の心配が杞憂であったこと、MB&Fの仕事は非常にエキサイティングだと言う事を伺い、心のつかえがとれたような気持ちです。

彼の私物で一番好きだというオロロジカル・マシン5 カーボンマクロロン(Holological Machine5 CARBONMACROLON)をまず見せてもらいました。



これはスーパーカーをモチーフとした"マシン"で、ドライビング・ウォッチとしてハンドルを持ちながら最小の動作で時間が確認できるように6時側の窓に時間が表示されます。
この表示は、ムーブメント表面にあるミネラルガラス製ディスクが表示する時間をサファイアクリスタル製のプリズムによって拡大しながら縦方向に変換することで実現しています。
分表示は連続的に動き、時刻表示は双方向に動作可能なジャンピングアワーになっています。



60-70年代のスーパーカーのような背の低いシルエットを再現しており、リアウィンドウに設けられていた太陽光を遮るルーバーも再現しています。
このルーバーは右側のレバーで開閉することができ、本来の目的とは逆に光を取り込み、ディスクを照らす役割があります。



モデル名ともなっているカーボンマクロロンというのは素材の名前で、ポリカーボネート素材マクロロン(登録商標)に主にカーボンナノチューブなどを使い、機械的に強化した樹脂素材です。
一番の利点として、素材自体が黒いため、コーティングで黒色にしたものと違い"剥がれ"が起きないと言う事があげられます。
また、コーティングの剥がれやすさを考えると尖った角を作れないなどデザインに制約が発生することがありますが、この素材ではそのようなことも起きません。
この素材はMB&Fのために新規開発したそうで、特性として"金属と同様に磨き仕上げができる"、"金属と同じ頑丈さ"、"鉄と同程度の硬度"を備えています。

個人的にいくら硬いとは言ってもコーティングは信用していないため、この姿勢は非常に共感できます。
カンタロスをチタンケースにした理由もデザインが最も好みだったWGのケースはセンターケース部分がブラックPVDを使っていたからです。



実物は写真よりも時刻が見えやすいと感じました。
カーボンマクロロンのケースも樹脂とは言っても所謂プラスティックのような感触ではなく、かといって金属とも違う不思議な触感でした。



ケースは2重構造になっており、ムーブメントを収め、防水などを担当するステンレススチール製の"エンジン・コンテナ"と外装に相当するカーボンマクロロンの外側のケースに分かれています。
ムーブメントはジャン=フランソワ・モジョン(Jean-Francois Mojon)が率いる、ムーブメントメーカー、クロノード(Chronode SA)が作成しています。
自動巻きで、一見偏っているように見えないミステリアス構造の"バトル・アックス"ローターです。

カーボンマクロロンではないですが公式のプロモーションビデオをどうぞ。



続いては革新的な"28日に月末の日付を足す"動作GPHG2016のカレンダー賞も受賞したレガシー・マシーン・パーペチュアル(Legacy Machine Perpetual)の新バリエーション、黒文字盤(正確には文字盤側のムーブメント地板が黒)です。





前回は撮り忘れたムーブメント側の写真です。
ダブルバレルで、時計輪列自体は1/4ぐらいのスペースにコンパクトにまとまっています。
永久カレンダー機構は文字盤側にあるため、他にはダブルバレルとパワーリザーブの輪列しか見えません。



斜めから見ると、幾重にも重なった永久カレンダー機構とその上に浮かぶテンワの構造がわかります。

ここまではSIHH会場で拝見しましたが、日を改めてジュネーブ市内のM.A.D. Gallery Genavaにも再訪しました。



なんでも新作、HM7 AQUAPODはSIHHの期間中に割り当て分が売り切れたそうで、改めて勢いを感じます。



スイスの筆記具メーカー、カランダッシュ(Caran d'Ache)とコラボレーションしたペン、アストログラフ(ASTROGRAPH)です。
キャップ部分の"ランディング・ギア"を展開することで自立する機構を持っています。

こちらも公式のPVをどうぞ。



ディテールまで拘っているのがわかります。
"発射場"を模した専用のボックスが付属します。



他にも日本の折り紙とロボットをモチーフにした作品などが展示されていました。

関連Web Site

MB&F
https://www.mbandf.com/en

M.A.D. Gallery
https://www.madgallery.net/