フェルディナント・ベルトゥー クロノメーターFB 2REの輪列レイアウトを探る

 By : CC Fan
満を持して発表されたフェルディナント・ベルトゥーの新しいクロノメーター、FB 2RE。
そのルモントワール・デガリテとチェーン・フュゼを「ダブル搭載」する意味については実機レポートで触れました。
作品として極めて奥深いので詳細を何回かに分けて追っていきたいと思います。

今回は、ルモントワール・デガリテとチェーンフュゼ以外をムーブメント内に隠し、「ミステリー」な見た目を実現している輪列レイアウトについて見てみましょう。

ムーブメントの構造は「ピラー&プレート」と呼ばれる形式で、地板にピラー(柱)を立て、その上にプレート(板)を載せる古典の時計でよく使われた方式で、「初代」ベルトゥーも用いていたようです。
しかし細かく見ていくと現代の加工技術によって改善された構造になっていることが分かりました。


輪列図と実際の輪列写真を対応付けてみます。
フュゼからの出力は中間車を経て2番‐4番車で加速されガンギ車の軸にまで到達します。
黒色の破線が地板の表面(高さ0)を表しています。

しかし、歯車の軸は片方は地板に埋め込まれた石、もう片方はそれぞれ独立したブリッジが支えており、古典的な「ピラー&プレート」のようにプレートで一括で押さえる方式を取っていません。
これは現代の加工精度であれば個別ブリッジであっても充分な軸間距離精度が取れること、個別の方がよりアガキ調整を厳密にできるというメリットからであると考えられます。
また、地板側を掘り込んで歯車を埋めることでより省スペースにすることもできます。

これは古典をそのままではなく、現代的なアレンジと言えるでしょう。



輪列の上にプレートが重ねられ、そこに脱進機(ルモントワール・デガリテとアンクル脱進機)が組み上げられます。
プレートの位置は紫色の破線で示しました。

ガンギ車のルモントワールひげゼンマイが収まる部分は一段下げられ、ここも省スペースになるようにしています。
このプレートはプレートという名前ですが、形状は単純な1枚板ではなく、塊から両面を削り出した複雑な形状を持っており、これも現代の加工技術があってこその形状です。
輪列図を見てわかるようにルモントワール・デガリテは非常に高さがある機構なのでうまく納めるために細かく最適化されています。



写真を見て、図にない歯車がいることに気が付いたでしょうか?
4番車の歯車に同軸でやや小さい歯車がついています。

これは計時用の輪列から表示用の輪列に伝えるための伝え車で、同じサイズの歯車に噛み合ってセンターセコンドを駆動する構造だと考えられます。
FB1も似たような構造でしたが、トルクの伝達方向が逆で、センターセコンドの駆動歯車からトゥールビヨンが駆動されていました。


4番車が伝え車構造でしたが、改めて見ると2番車の本来の表示位置から外れており、輪列がオフセットしていて、計時情報を伝え車で伝えるインダイレクト(間接)輪列であることが分かります。
そこまでは追いきれませんでしたが、2番車(時分針)の駆動はフュゼの根元から分離しているのかもしれません。

文字盤側の写真が無いので、それが見られればもっと詳細が分かりそうです。



高精度時計に必須のストップセコンド機構もあります。
リュウズから伸びたレバーがプレートを貫通して天真の根元近くに突き出し、テンワの振り座を押さえて止める方式です。

少し気になるのはこの方式だとルモントワール・デガリテの脱進タイミングまでは制御できないため、最大4/5秒のずれが発生することです、ただこれは人間側で対処可能で、タイミングよくステップ運針直後にリュウズを引けばほぼ問題にはならないでしょう。



パワーリザーブインジケーターはFB1のウォームギア&コーン方式からより普通の減速歯車方式になっています。
これは香箱の外周に設けられた読み出し用歯車から減速して直接針を動かす方式です。

香箱は上部に設けられたゼネバ機構で6回転弱で回転が止まるように制限されるため、この方式で充分表示することができます。

FB1のウォームギア&コーン方式は一種の差動装置なので巻き芯から巻いて、外周から放出する通常香箱であれば巻き数の差を計測するという意味がありましたが、巻き上げと放出を両方とも外周から行うチェーン・フュゼ香箱では片方の入力を遊ばせているようなものなのでちょっと無駄かな?と思っていました。
今回はよりシンプルな方式でほぼ同様の表示を実現できたのは進化しているといえるでしょう。

香箱が6回転弱なのはチェーンが7周巻かれていることからも分かります、チェーンフュゼはチェーンに過大なテンションがかかってしまうフル巻きとチェーンが緩むトルクが無くなった状態は破損に繋がるため避けなければいけません、そうなる前にゼネバ機構が香箱にテンションがかかった状態で止めることでチェーンが緩まなくします。



最後にピラー&プレート構造のピラーについて、これは実は2種類あります。
プレートを支持するためのものと、ケースに固定するためのキドメに相当するものです。

プレート支持用は位置合わせ用のピンを兼ねているため凸がありますが、キドメは単純なメスネジです。

10本のうちキドメが3本、プレート支持が7本あり、プレート支持の7本は3本が脱進機プレートの支え、2本がチェーン側の飾りプレート(フェルディナント・ベルトゥーの銘や石数が書いてある部分)、2本がリュウズからの巻き上げ輪列ユニットを支える部分です。


キドメとプレート支持の差は分かりますでしょうか?

非常に興味深いFB 2RE、より知りたいとルモントワールを理解するために高校数学の幾何学をやり直し中です…

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