Andreas Strehler氏との出会い

 By : CC Fan
SIHHでは出展しているブランドに関係ないブランド・業界の方々にお会いすることもできました。
今回は一方的にファンだったアンドレアス・ストレーラ(Andreas Strehler)氏にお会いでき、作品まで拝見させていただいたことをレポートしたいと思います。


Andreas Strehler氏

氏は、自身名義の作品の他、他ブランドへの技術協力も行っています。
Webサイト上で明らかにされているだけでも、H. モーザー(H. Moser & Cie)の永久カレンダームーブメント、ハリー・ウィンストン(Harry Winston)のオーパス・セブン(OPUS7)、メートル・デュ・タン(Maîtres du Temps)のチャプタースリー(Chapter Three)、モーリス・ラクロワ(MAURICE LACROIX)のクロノグラフムーブメントなどの開発に協力しています。
私はクラーレと同じく、ハリー・ウィンストンのオーパスシリーズで名前を知りました。

いくつかのピースに搭載されているルモントワール・デ ガリテ(REMONTOIR D'ÉGALITÉ)は個人的に最も"理にかなってシンプルな"コンスタントフォース機構だと考えています。


REMONTOIR D'ÉGALITÉの動作の様子(公式サイトより)

香箱からのトルクを受けるアームに取り付けられた星形のホイールが先行する停止用の石によって1秒ごとに開放されることでステップ状に動いている様子がわかるかと思います。
星形の歯車を支えるアームと停止用の石を支えるアームは同軸ですがヒゲゼンマイのみで繋がっており、このヒゲゼンマイがコンスタントフォースのエネルギーの貯蔵場所として働きます。
同じく1秒ごとのコンスタントフォースを実現するカンタロスの機構と比べると、以下の点が優れていると言えます。
  • パワーロスとロックを起こしやすいカム機構がない
  • アンクルが不要で調整箇所も停止用の石のみ
  • 回りすぎを防止するための固定ピンが不要(原理的に停止用の石より先にアームは回らない)
この機構を搭載し、200万年(2M=2Million)に1日の精度のムーンフェイズと組み合わせたピース、ルーン・エクザクト(LUNE EXACTE)を拝見させていただきました。


ストレーラ氏が着けたLUNE EXACTE 

ムーンフェイズの精度競争(〇〇年に1日の誤差)は各ブランドが競っていますが、ストレーラ氏のものは前作ルーン・パーペチュアル2M(LUNE PERPÉTUELLE 2M)の時点で200万年に1日の精度を達成しており、ギネスブックによって"最も正確である"というお墨付きが与えられています。


LUNE EXACTE ダイヤル側

オフセットした時分針が3時位置に、ルモントワール・デ ガリテが10時方向に見えます。
ムーンフェイズは8時側にありますが、6時側に見慣れないダイヤルが付いています。
これは、前作ルーン・パーペチュアル2Mでムーンフェイズの"精度"を極限まで高めたストレーラ氏が、"合わせやすさ"を追求した、ムーンバーニアスケール(MOON VERNIER SCALE)という機構です。

公式サイトに読み方が書いてありますが、基本的な仕組みはノギスと同じです。
固定された外側の目盛りが月齢の日付を表し、約29.5日で一回転する内側のリングの赤矢印が日付を指しています。
赤矢印が外側の黄色部分を指している場合はリングの黄色の部分の目盛りと外側のリングの目盛りが重なったところが月齢の時間です。
逆に赤矢印が青色部分を指している場合は、リングの青色の部分の目盛りと外側のリングの目盛りが重なったところが月齢の時間です。
目盛りは3時間刻みなので、この機構によりダイレクトに3時間単位で月齢を合わせることが可能となります。

このような”合わせやすさ”に対してケアをしているムーンフェイズとしてはH. モーザーのものがあります。
あちらは約29.5日の1/4ごとに基準線が設けられており、ムーンフェイズが時分針から直接駆動されているため、早見表を使って基準位置で時分針と月齢を同期させてから時刻合わせをするという仕組みです。


LUNE EXACTE ムーブメント側

ムーブメントはストレーラ氏の特徴である蝶(パピヨン)を象った美しいブリッジを持ちます。
大胆に抜かれているので分かり辛いですが、これはドイツ時計などにみられる3/4プレートの考え方でメインの輪列を一つの大きなブリッジで押さえる思想です。
ルーン・エクザクトではダイヤル側はノーマルなスケルトンですが、一部のピースではダイヤル側にも蝶の意匠が見られます。


LUNE EXACTE ムーブメント側(斜めから)

ストレーラ氏は大きめの歯車を使うため、スケルトンと相まって非常に見応えがあるムーブメントです。


LUNE EXACTE ケースサイド

ムーブメントの厚みは5.9mmしかなく、ケースもそこまで厚くありません。


腕に載せさせてもらう

ストレーラ氏が日常的に使っている個体のため、使用感を感じさせる細かい傷はありましたが、ベルトが馴染んでいるためか、非常に着け心地は良かったです。


尾錠側

ありがとうございました!

関連 Web Site

Andreas Strehler
http://astrehler.ch/