Kantharosについての新情報

 By : CC Fan
これまでもクリストフ・クラーレ(Christophe Claret)のカンタロス(Kantharos)についていろいろ書いてきました。
非常に繊細な構造で、まだ万全の調子とはいかないため、現在クラーレ社に里帰りしています。
ただ、詳細はまだ明かせませんが、今までよりも大規模なアップデートを行うことによりよくなる予定です。
三周年には間に合うといいなあ…

今回は、クラーレ社見学の際にカンタロスの機構についていくつかの新しい情報を得たので、レポートしたいと思います。
カンタロスは日本ではほとんど売れていないため、自分しか得をしないようなレポートですが…

時間積算計の仕組み

疑問の一つは時積算計の仕組みがプレスリリースなどでも触れられておらず、謎だったことです。



このCGで自動巻き機構の向かって右下ににある部品がクロノグラフの垂直クラッチで、そのまま時分針と同軸の秒積算計に繋がっています。
秒積算計から中間車を経てテンワの上あたりにある分積算計に繋がっています。
時積算計は垂直クラッチ側にあるため、分積算計から動力を渡すのは無理だろうと予想がつきましたが、具体的な仕組みは謎でした。

今回、CAD(図自体の掲載はNG)を見ながら説明を受け、香箱から別輪列で駆動しており、メインの垂直クラッチと同期する水平クラッチで制御されるという仕組みだということがわかりました。
別輪列は香箱と計時輪列と同様にクロノグラフ機構が載っているプレートの下に埋まってしまっているため、見えませんが、水平クラッチはかろうじて見えるようです。


プレスリリース中の垂直クラッチの図です。
図中では全く説明がありませんが、右側に伸びているアーム上の部品が水平クラッチのピンを押すことでクラッチを制御します。
水平クラッチは時間が対象で表示粒度が荒いためと審美性よりもスペース効率と機能を重視したのか小さい歯車を使っています。

時積算計からは停止時に積算計の位置を保持するためのブレーキレバーは省略されており、代わりに積算計の軸に板バネで適当な負荷を与えて位置の保持と回転時のふらつきとバックラッシ抑制を行う仕組みです。
摩擦保持というのは少し気になりましたが、最近は高級機でも使われるようなクラッチを省いた摩擦車で結合されており、ブレーキレバーで制御する(停止時は常に摩擦車が空転して摩擦抵抗が発生)という仕組みに比べればクラッチがあるので摩擦抵抗が発生するのは動作時だけなので良いと考えることにしました。

摩擦車を使った方式も摩擦車が負荷になることでクロノ動作時と停止時のトルク変動を抑える効果があるらしいですが、個人的にはずっと擦れてるのはあんまりいい気持ではありません。

よく見ると動画でも水平クラッチの動きを確認できます。



2:33あたりから、水平クラッチが動作するときに、動画右下で水平クラッチのアームが動いてかみ合っているのがわかります。

積算計ディスクの素材



カンタロスの文字盤デザインの特徴となっている航空機のカウンターを模したディスク表示の積算計ですが、重たそうなのが気になっていました。
この点について確認したところ、ディスクはアルミニウム製で極めて軽いので問題ないとの回答でした。
アルミだとメンテナンス時の抜き差しで曲がる?という疑問に対しては、軸の部分にネジを噛ませて抜くためのネジ穴が切ってあり、それを活用することで問題なく抜けるとのことでした。
このネジ穴はサファイヤダイヤルの黒い部分で隠されるため、通常時は気になりません。

構想時に搭載されていたコンスタントフォースロック機構

コンスタントフォース機構の解説図で実機と違う部分についても聞いてみました。




脱新車(始動歯車)について、歯に実機にはない段差のようなものがついています。
ただの補強かと思っていたのですが、これはX-TREM-1から引き継いだ香箱のトルクが低下した時にコンスタントフォースをロックして時計を止める機構だそうです。

トルクが低下してくると始動歯車が充分にゼンマイを巻き上げられなくなるため、秒の歯車と同期して回るようになります。
その状態になるとこの段差部分にアンクルの爪石が引っかかるようになり、時計全体を停止させます。
これにより、コンスタントフォースが効かなくなったら止める…はずだったのですが試作したところ効いているときでも誤爆して止まってしまうため取ってしまったそうです。

独立した二つの香箱があるX-TREM-1ではうまくいったものの、条件が変わるとうまくいかないようです。

コンスタントフォースの開発世代(7月11日追記)

デテント脱進機を備えたマエストーゾ(Maestoso)はカンタロスと同様にコンスタントフォース機構を備えています。



テンワの右上に四番車相当のコンスタントフォース機構が備えられています。
発表はマエストーゾの方が遅い(カンタロスは2013年、マエストーゾは2014年発表)ため、以前、何かの媒体で"カンタロスのコンスタントフォース機構を改良したものがマエストーゾの機構"という記述を見かけました。
開発年数を考えると逆では?と思い、確認したところ、デテントのプロジェクトが先にあり、カンタロスの方が派生であるとの回答でした。
デテントの開発期間は公式に7年、カンタロスは今回聞いたところ2年半だそうです。

クラッチペンチの構造

クラッチペンチの構造については以前、ショパール(Chopard)のものと対比させることで何となく理解できましたが、裏付けを聞いてきました。


赤丸の部分はやはり開閉時の挙動を安定させるためのガイドとのこと。
上下のペンチそれぞれに噛み合う専用の相手部品がおり、組み立て時に水平に動作するように調整するそうです。



部品部分の拡大です。
この部品を調整し、滑らかに動くようにするそうです。

リセットハンマーに埋め込まれているルビーについては通常時はどこにも当たらず、万が一の時に滑らせるために埋め込んであるそうです。



ブリッジとローターに埋め込んであるルビーも同様で、万が一の時の備えとのこと。

その他、各部に入れられた規制バネなど設計については充分納得できました。
設計としては非常に手間がかかったつくりであるということはわかりました。
ただ、やはりまだ時間の洗礼を受けていないというのは如何ともしがたいのかもしれません。

今回は戻ってくるのは結構先になってしまいそうですが、戻ってきたらまた"外部テスター"としてレポートしたいと思います。

忘れないうちに書きたいという気持ちからまずカンタロスのことを書きましたが、次回からは工房訪問の記事を書きたいと思います。

関連 Web Site (メーカー・代理店)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/